2003年06月23日「クビ論」「人の話なんか聞くな」「夜の世界 裏実践術」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「クビ論」
 梅森浩一著 朝日新聞社 1200円

 著者は外資系企業で人事総務一本槍で来た人です。
 「ならば、クビ切りなんて当たり前でしょ?」
 たしかにそうかもしれません。
 けど、彼は外資系は外資系でも、いずれも日本の会社なんですね。日本の法律、文化の中でクビ切りを断行してきた、というわけです。
 いちばん良いのは、クビ切りの背景に大義名分と愛情が溢れてることでしょうか。ある意味で、哲学が感じられる本です。

 「ボクは部下や社員をたくさん解雇した。そんなことをしておいて、自分が残るわけにはいかない」
 こういって、会社を辞める人事担当者がいます。
 これは普通、美談として扱われますが、ホントですかね。
 プロ意識の欠如じゃないかな。だって、そんなこと言うなら、社長はどうして辞めないのよ。ほかの役員は? 部長は?
 どうして、あなただけが辞めるのよ?
 「美学です」
 そうなんです。美学という酒に酔っぱらわないと、こんなことはできません。けど、これは個人的な感情であって、公私混同も甚だしいんです、ホントはね。

 著者のあだ名は「クビキラー」。ちょっと笑っちゃうな。カビキラーというのは知ってるけど。ターミネーターとかクビキラーってんだから、悲しくなっちゃう。
 でも、10年くらいで1000人のクビ切りをしてきた、と言います。ある時は1日に10人くらいとか。
 「一斉解雇なら1万人だって簡単だ」
 たしかに。でも、一人一人とじっくり会って話をする。納得するかどうかは疑問ですが、一応、「自分で判断した」という形で解雇するわけですよ。これが1000人というのは、ものすごいですな。
 著者はこのクビ切りで会社にざっと850億円ほどの利益をもたらしました。
 それで収入もたくさんもらった。しかし、リストラが成功すると、今度はクビキラーの出番も無くなりますから、自分がリストラされてしまった。当然のことです。
 「やりすぎなんだよ。解雇した社員から裁判で訴えられたり、解雇要員をまだまだ残しておけば、まだ雇ってもらえたんだ」
 これは他の会社のクビキラー氏の発言です。

日本企業のクビ切りと外資系のそれとは大きく違います。
 外資系は銛でひと突き。なにしろ、解雇と言えば、指名解雇ですからね。だから、英語には「指名解雇」という言葉がありません。
 日本企業は投網です。だいたいこの辺かな、といい加減なの。
 というのも、何人リストラするかという目標がある。それにそって、まず年代を決めて希望者を募る。足りなければ、少し幅を広げてまた募る。こうやって、数字あわせをしていく。
 外資系、日本企業、いずれにしても、クビはなかなかしたくない。しかし、しないと自噴がクビになる。
 そうなると、「君の仕事は無くなった」とすら言えなくて、「いろいろやってみたけど、かばいきれなかった」とかいってごまかす。つまり、辞めさせようと指名する直属上司ですら、部下にはきちんと理由を言えないわけです。

 さて、「クビ」と言った時、その対応は大きく二通りに分かれます。
 「あっ、そう」というタイプ。それに、「ヤダ、ヤダ、絶対にいや」というタイプです。
 前者は実力があるタイプです。実力があっても、クビにはなります。だって、外資系だと、リストラは給料たくさん取ってる人から、というのが常識じゃないですか。このほうがリストラ効果はありますもの。
 日本の銀行も役員から辞めさせたら良いんですよ。リストラ、スリム化、効率化のすべてにメリットばかりでしょう。

 後者の場合は、仕事もできなくて文句や愚痴ばかり言ってる人に多い。
 解雇ですからね。恨み、つらみはあると思いますよ。でも、「解雇してほしい」というのは所属部署の責任者であって、人事部長ではありません。ここまで来る前に、きちんと手を打つべきだったんですね。
 仕事を頑張るとか、コネをきちんと作っておくとか、労組の幹部になっておくとか。のほほんとしてたら、ある日突然、リストラ・・・というわけです。

 というわけで、本書は逆に読めば、リストラ防止対策としても勉強できます。なんといっても、その道のスペシャリストが書いたんですからね。

 正しいクビ切りの本質はどこにあるか?
 それは人材の流動化、そして実務の効率化にあります。
 とくに外資系の場合、社員をプロとして雇います。財務なら財務、営業なら営業のプロですよ。
 プロだからこそ、プロとしての力が落ちたら去るしかないんです。

 しかも、大事なことは、プロとして仕事をしているかどうか。この評価、判断をする人は誰か?
 人事部か?
 いや、そうじゃない。上司です。
 だからこそ、中には部下が新人でライバルにならない時は親切なのに、プロとして頭角を現してくると、「クビ切りリスト」に入れる上司も少なくありません。著者は何回かそういうケースを見て愕然としたらしいです。

 日本の会社だと、人事部が判断したり、他部署の上司が引き取ってくれたりしますよね。とくに、部下を育てられないのは上司がバカだから、という評価をされるから、上司もダメ部下でも嫌々使ってますよ。
 けど、外資系はそんなことはありません。自分のポジションだって、明日、あるかどうかわからないんです。だから、上司だって常に保身を考えてますよ。
 わたしは外資系に勤務したことはありませんが、たくさんの経営者、ビジネスマンを知ってます。彼らがよく言うのは、「外資系の社長に人相のいい人は少ないね」ということです。とくに日本ブランチは支社長感覚ですから、上(外国人)を見て、横から下から、外部から鉄砲玉が飛んでくるんですから、ストレスは大変ですな。

 あと、外資系企業は優秀だと錯覚してる人が少なくないようですが、比較的、相対的に秀でているのは語学力くらいではないでしょうか。実際、残念ながら、「これは!」と驚くほど優秀なビジネスマンに会ったことないなぁ。MBA取得者も含めてね。
 「こんなもんかな」だもの。

 著者は学校を出てから英国系の銀行に入りたかったようですね。
 ところが、不合格。
 「今回はダメだったけど、もい君が本当にウチに入りたければ、まずどこか別の会社に就職して経験を積んでから、また受けてもいいんだよ」
 いまなら当たり前。けど、その時の面接官の言葉がとっても新鮮に響いたそうです。
 それまで抱いていた仕事観、人生観が音を立てて崩れていくような気がする、といいます。
 そこで就職したのが、デュポンフロロケミカルという会社。これはフロンガスを商売してるから、先が明るいとは言えません。しかも、営業志望が総務に配属。
 けど、これが後に功を奏します。
 というのも、その英国系の銀行に総務のプロとして採用されるからですね。

 後にチュース・マンハッタン銀行に転職します。その後、その力量を認められて、ケミカル銀行に人事部長として転職します。
 この時、会社としての格はチュースのほうが上です。けど、会社よりもキャリアを選択したんですね。
 これはプロとしては当然でしょう。

 独立は別にして、転職を考える時、勉強、自己啓発、自己投資を考える時、最優先すべきことはこの「キャリア」ですよ。履歴書、職歴書に入れられないようなキャリアなど、積んでもなんの役にも立ちません。
 たとえば、世間一般ではなんら認められていない資格、技術、称号などは百害あって一理無しです。どうせ勉強するなら、どうせ投資するなら、「ああ、あれか」「あれはすごいよ!」と、だれもが知ってる資格、技術ですよ。

 ところで、いま、再就職支援会社とかありますけど、あれって、いったい何の役に立ってるのかね。
 だって、そんなとこ行って、面接の練習したって効果無いもの。就職は自分で探すんですよ。その会社が探してくれるわけじゃありません。
 おそらく、推測するに、辞めさせた会社側としては、一応、「解雇した後もフォローしてますよ」というごまかしなんですね。解雇された側にすれば、「クビになってもしばらくは定期的に行ける場所があるし・・・」と、自分の居場所を確保するためなのではないでしょうか。
 早い話が、どちらにとっても「癒し」なんですな。これは、クビ切りという行為がクビを切る側、切られる側、どちらにとってももの凄いストレスなんでしょうな、きっと。
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2 「人の話なんか聞くな」
 堀場雅夫著 ダイヤモンド社 1500円

 まっ、「仕事ができる人 できない人」の続編というところでしょうか。
 わたしたちの耳に入ってくる情報の99パーセントは役に立たない雑音です。けど、重要な1パーセントのシグナルをどう聞き取るか、ここがポイントなんですね。
 聞き取った人間はビジネスでも勝ち組になるし、聞き取れない殆どの人は聞き取った勝ち組の指示の下に働くか、負け組になるしかない。
 「成功者はその1パーセントのシグナルをノイズの中から聞き分ける。1パーセントを発信する部分に集中して、人の話の大半を聞かない」
 人の話を全部聞かないのではなく、ノイズとシグナルとをきちんと聞き分けること。これがポイントなんですな。

 人の話を聞きたくなるのは、自分に自信がないからでしょう。

 けど、あの松下幸之助さんの口癖を覚えてますか?
 わたしの本ではいくつかケースを紹介しましたが、「君、どう思う?」が癖なんだもの。
 これは自信がないからでしょうか?
 「いや、あれだけの人だから、自信の塊さ。相手がどれだけ勉強してるかチェックしてるんだよ」
 たしかに、そうかもしれません。けど、やっぱり、自信がなかったんだと思いますよ。石橋を叩いても渡らないほどの人だもの。けど、決心したら動かない。できるまでやる。ずっとこだわりを持ち続けてるんですね。
 だから、ことある度に人の話を聞くんです。それで吟味してるんですね、タイミングを。

 「何をやるか」は決まってる。けど、「どうやるか」をとことん聞いてるんです。

 人の話を聞くな、という意味は、「何をやるか」すら自分で決められない人に向けてのメッセージだ、と思うな。
 この本、ゴーストライターにまとめさせたと思うけど、この点をきちんと説明しておかないと深みのある本にはならないね。

 「こういうことをしたいと思います。それについて、どうお考えですか?」
 これは人の話を聞くのではなく、情報収集だとか。ほら、そうでしょ?

 ところで、堀場さんの会社では稟議書には印鑑を付く箇所は一つしかないそうです。それは責任者は一人だけだから。役所のように、何十もの印鑑が押されて連帯責任なんてナンセンスだよね。
 全体責任は無責任、という通りです。ところで、どうしてこの本、アマゾンのユーズドストアに出せないのかね。まっ、いいんだけど、それでも。
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3 「夜の世界 裏実践術」
 栄宏輝著 イーストプレス 1300円

 風俗界の風雲児として活躍する著者が、懇切丁寧、しかもすべて実話でおくるノンフィクション。
 なんとも読みやすく、興味深い内容か。あっという間に読破です。

 なんでも、フランチャイズ店舗を何十と経営してる人です。けど、年齢を見たら、まだ35歳なんだよね。
 22歳で独立し、成功をつかみます。

 この風俗という世界は学歴不問。どんな人生を背負ってようが、知恵と才覚、腕と度胸でのし上がっていける世界ですね。
 あらゆる仕事を経験した著者。何をやっても半端。けど、高校中退では、エスタブリッシュの世界には無縁。これは金を稼ぐしかない、と腹をくくります。

 運を味方にのし上がります。東映Vシネマみたいだな、と思ってたら、どうやら、どこかで映像化されそうですね。

 さて、やくざ見習いをしてた時に会った兄貴分が良かった。これからの時代、法律も厳しくなり、この渡世でいい目が見られるのは500人に1人いるかいないか。
 ドンパチがありませんもの。もう仁義なき戦いの時代じゃないもの。
 飲み屋のみかじめ料にしたって、どんどん店自体がなくなってるから、実入りは少なくなってるはず。その上、暴対法でしょ。さらにさらに中国マフィアの登場。
 ホントに厳しいよ。あの人たち、1000円程度で簡単に殺しちゃうって評判だもの。

 風俗ビジネスで成功する人ってのは、何十万人に1人という確率らしいですよ。たいていは失敗する。
 けど、巷ではリストラされた人を対象に、「風俗ビジネスで成功する法」とかいうセミナーが大流行とか。
 たしかに、この世界は1年で1億円稼ぐのも夢ではない、という。けど、それは当たった時のこと。当てるためには、知恵がいる。
 「美人で可愛くて、低料金。そして他店に負けない過激サービス」
 けど、そんな簡単にいくわけがない。だから、知恵を絞る。

 たとえば、著者は日本でいちばん最初に「お触りキャバクラ」を生み出した男。これが当たりに当たった。
 どのくらい当たったかと言うと、関西、中国、四国、九州からお客がどかどかやってきた、と言います。しかも、開店30分前にもう並んでる。
 まるで、新装開店直後のパチンコ屋ですよ。
 それが閉店まで続くどころか、閉店後も続く。まだ何人も待ってるわけです。だから、お客が怒ること怒ること。喧嘩騒ぎになるそうです。
 こうなると、商売は笑いが止まりませんな。

 以来、いろんなアイデアで業界をリードします。

 けど、ここまで来るのは一筋縄ではいきません。
 ある時はデリヘル(わからない人は「現代用語の基礎知識」で調べてください。以下、同じ)のトラブルでやくざにさらわれ、ボコボコにされた上で海に放り投げられたとのこと。
 「もし、岩でもあったらダメだった」
 幸い、無かったから命があった。

 風俗ビジネスで大事なことは、まず、女の子の心理を読めないとダメですね。
 いちばんいいタイプは、借金を抱えている娘。彼氏の借金でもいい。あるいは、何か夢を持ってる子。
 やっぱり、目標があれば頑張れるんですね。
 でも、借金は別にして、あまりそういう子はいない。だから、目標を与えるんですね。

 キャバクラって行ったことないんだけど、音楽がガンガンかかってるわけ。その理由は、指名を受けた子のタイムマネジメントのためなんですね。
 時計なんか見られないから、曲で時間を判断するわけ。いま、2曲目が終わったから、7〜8分くらいかな、というように。
 1人のお客につく時間はだいたい10分。だから、指名客が3人だぶった場合、1人2曲で処理しないといけないわけ。
 これこそ、プロだよね。

 女の子のスカウトのため全国を歩きます。電話で応募してくる場合も少なくありません。
 その時でも、ノウハウがあります。
 「制服、用意してるんだけど、何号かな?」
 これでサイズがわかります。細いのか、デブなのか。でかいのか、小さいのか。
 「カラオケ行ったら、何歌うの?」
 これで明るい子か暗い子かがわかります。
 「タレントなら、だれに似てるっていわれる?」
 これでだいたいルックスがわかる。けど、これ、自己申告だからね。

 この前、ゴールデン街でいつも行く店で飲んでたら、風俗専門のカメラマンとじっくり話したんだけど、やっぱり、自己申告はあてになりません。どうやら、風俗誌に掲載するため、ソープ嬢の宣伝用写真を撮影したそうなんだけど、もちろん、宣伝料をもらってね。
 一応、プロフィールも載せるわけ。
 「チャームポイント、どこ?」
 「チャームポイント? アタシ、目が可愛いって言われるんだけど」
 それがヒラメみたいなんだって。そうかもしれませんなぁ。このわたしだって、「チャームポイントは?」と言われたら、「裕次郎張りの長い股下」といいかねないモノ。
 「タレントで言えば?」
 「昔、原田大二郎とか、中村敦夫に似てると言われたことがある」
 自己申告ほど当てにならないものはありません。

 さて、本書を読めば、風俗業界で成功するためのイロハはすべて勉強できると思うな。
 女の子の選び方、男の従業員の指導法、お客のあしらい方。そして、やくざ・警察とのつき合い方。これって、大事だよね。
 250円高。購入はこちら