2002年12月09日「デザートのカリスマ」「成毛式実践マーケティング塾」「恋愛中毒」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「デザートのカリスマ」
 内海悟著 ビジネス社 1300円

 この著者は、03年1月度「キーマンネットワーク」の特別講師です。
 パシフィックコンサルタント、ドッドウェルエンドコムパニーリミテッドなどで、営業戦略立案、宣伝販促プラニング、消費開発・分析、マーケットリサーチなどをマスターしたあ、85年にミックビジネスシステム、00年にデザート・カンパニーを創業します。
 この人の名前を聞いたのは、28歳で商社の新商品開発リーダーとして、年商40億円を超えるロングセラー商品を開発したでしょうね。これは、いまでも業界の語りぐさとなってます。

 で、このデフレ不況下、「デザート」を切り口にして、逆風をものともせず、外食、流通、サービス、メーカーをクライアント、たった2年で250社、計1000店舗とコンサル契約を結んで(まだまだ急増中)、連戦連勝の成功を導いてるんですね。

 わたしはデザート、好きではありません。でも、周囲の女性、たとえば、女子大生とか20代、30代の女性から、さらに熟女といわれる人までヒアリングすると、「あたし、デザートの内容で、店、選ぶ」という人が少なくないんですね。
 メインディッシュがいちばん大事でしょうが?
 「メインディッシュって、ほとんど、どこの店も味が変わらないもの」
 そんなものですかねぇ。

 でも、デザートは別腹というのはよく聞きます。ということは、別勘定なんですね。
 ということは、理屈抜きに心をとらえるビジネスでもあるんですな。

 で、著者もデザートを導入したことがない企業、たとえば、居酒屋、回転寿司、カラオケ店などなどから契約をドーンともらってるわけ。
 外食産業はもうアップアップです。努力の上にも努力してます。価格破壊、新メニューの提案をここ数年、短期間に何度も繰り返してます。もう、次の段階は残された盲点、サイドメニューである「デザート」がクローズアップされてるんです。
 和食の世界ではまだ浸透してませんけどね。この世界、まだまだ男性中心のメニュー構成なんですね。だから、客数の落ち込み、売上の伸び悩みで深刻なんですよ。
 いまの時代、女性をつかまえないことには商売なんて成立しませんもの。

 それにね、「はしご」がなくなりつつあるんです。
 もう一店完結型。すなわち、一店舗の滞留時間がそれだけ長くなるってことです。
 そういえば、わたしがよく使ってた「蝦夷御殿」「光林坊」なんて店は、座敷で飲んだ後、もうその場所で二次会セット。引き戸を開けると、ジャジャーンとカラオケがせり出してきますもの。
 なんだ、なんだと驚いてる間に、二次会はもう始まってるというわけ。

 女性が主役なんですね。
 いままで食ビジネスは、「美味しさ」「安さ」「早さ」を求めてきました。効率重視のマニュアル世界でもありました。この食の世界で忘れたモノ、それが「楽しさ」なんですね。

 楽しめる要素は何か?
 それがデザート。
 不思議なことに、原価率を高めに設定してもオーケーですよ。「美味しくて安い」と感じちゃいます。原価率はメインメニューの二倍でも集客アップ、採算も合います。トータルで利益率が上がる。これがデザートビジネスの「魔法のマーケティング」なんです。

 ただし、どんなデザートでもいいかというと、そうではありません。この世界、かなり深いんです。
 たとえば、どんなものでも定番がありますね。洋生菓子ではショートケーキ、シュークリーム、モンブラン、焼き菓子ではフリアン、マドレーヌ、ミルフィーユ、和菓子では饅頭、大福、どら焼き。これが御三家です。
 だから、この定番を外さない仕掛けが大事なんですね。たとえば、「いちご大福」「フルーツあんみつ」といったヒット商品がありますね。これなんか、よく考えれば、イチゴと大福、フルーツとあんみつといった、昔から人気のある食べ物をミックスしただけでしょ。
 デザートというのは斬新さが求められているように見えますが、実は安心して食べられる味、すなわち、定番を外さないことがポイントなんですね。

 この会社の提案では、菓子職人を雇う必要もありません。店側にデザートの知識も必要ありません。それでいて、各店独自の個性的なデザートを提案できるんです。しかも、納入価格100円弱(送料込み)です。それを店頭価格300〜500円で販売できるんですね。
 回転寿司屋でいちばん売れてる商品が「チーズムース」だなんて、初耳ですね。
 小さな会社が儲ける「魔法のマーケティング」のヒントをいろいろ教えてくれる本です。
 もちろん、キーマンネットワーク定例会にもご参加ください。よろしくね。
 250円高。購入はこちら


2 「成毛式実践マーケティング塾」
 成毛眞著 日本経済新聞社 1500円

 著者はマイクロソフト日本法人の前社長。いまは、コンサルティング会社を経営しています。

 ところで、「マーケティングと営業の違い」って、何でしょうかね?
 たとえば、トヨタ自動車。
 セールスした車のうち、ディーラーに車検で戻ってくるのはたったの7〜8パーセントしかありません。いま、ディーラー業界は価格競争が厳しいから、車検や修理、点検、部品の交換、板金塗装などで儲けるしかないわけ。
 だから、車検というのはかなりおいしいビジネスなのよ。
 でも、これがこんな数字でしょ。これはディーラーとしてはたいへん痛いんです。だから、メーカーとしては販売奨励金といったバックマージンを出して損失補填をしてるわけです。
 これが構造的な問題になってるわけだから、営業サイドでは解決しないといけません。

 では、いったいどうすればいいのか?
 「トヨタのディーラー以外には部品の供給を止めよう。そうすれば、お客さんは町の修理工場にはもっていかない」ということに当然、なりますね。
 よし、そうしましょう。そうすれば、車検時期にはおそらくすぐに10パーセント以上には跳ね上がりますよ。もしかすると、20パーセント台までいくかもしれません。いや、もっといくかな。だって、部品がなければ時間がかかるんだから、お客さんは困るでしょ。
 「そんなに遅いの?」
 「えぇ、トヨタのディーラーじゃないから、部品がないんですよ」
 「なら、そっちに行くわ」
 こうなります。となると、ディーラーの財務は簡単に好転しますわな。

 じゃ、そうしたら?
 ところが、そうはなかなかできない。
 なんでかな、なんでかな?

 町工場から見ると、それがよくわかります。
 「トヨタ車なら、一日でできるよ。ほかの車だと、部品の取り寄せになるから時間がかかるんだよ」と整備士。
 「さすがだねぇ、トヨタにしてホントに良かった」とお客さん。
 このシステムを無くすと、日産、ホンダが部品をきちんと用意して町工場にアプローチします。
 「日産車なら、すぐに車検できるんだけどね。トヨタだと、最低3〜4日は待ってもらわないとね」
 「困ったな。代車ない?」
 「ない、ない。レンタカー借りてよ」
 「不便だな」
 こうなります。
 これがボディブローのように効いてくるわけです。つまり、新車の販売台数におおいに影響してくるわけ。だから、マーケティング的な観点からは、ディーラーのライバルである町工場もむげにはしないんです。

 もう一つ。
 「新車と中古車はライバル関係ではない」という証明。
 プレミアがついてる商品は別ですが、中古車よりも新車のほうが価格的には高いのが普通です。だから経済的に考えて、「中古車を買う」という判断をするお客さんは少なくありません。
 だけど、お客さんの中には「後日、下取りに出したときに高く売れる新車を買う」と賢明な判断をする人も少なくありません。
 つまり、判断には大きく分けて二通りあるというわけです。

 中古にするか、新車にするか。これはそれぞれ理由があってしかるべし。お客さんのテイストの問題でもあります。

 さて、BMWは88年に、日本ではじめて「認定中古車」という制度をスタートしたことはよく知られてますね。
 いまでも、店頭にピカピカに磨き上げられたBMWがデンと座ってます。
 これはメーカー自ら、「この中古はいいよ。自信をもってお贈りします。内容は保証します」と証明書をつけちゃうわけ。もちろん、整備は徹底的にします。80カ所もの項目をチェックして、合格点の中古車だけを認定するわけですからね。

 「そんなことしたら、新車が売れないんじゃないの?」
 はい、そうくると思ってました。
 それが、この制度のおかげでBMWはグンと売上を伸ばしたのよ、それも新車のマーケットでね。
 なんでかな、なんでかな、なんでか、なんでかな(トモ&テツののりでどうぞ)?
 というのも、「新車を買えば、ちゃんと高値で引き取ってくれるマーケットがあるぞ」とお客さんが判断したからですね。しかも、メーカーが中古車を認定するということは、値付けもリーダーシップをとってきっちり確定しちゃうということですね。相場をメーカー自ら設定できる。となると、中古車の値崩れを防げるという意味です。
 これくらい、新車ディーラーのセールストークに寄与するシステムって、あまりないんじゃないかなぁ。

 こんなマーケティングの勉強をするにはうってつけの本だと思いますよ。
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3 「恋愛中毒」
 山本文緒著 角川書店 571円

 「ラブホリック」と装幀に横文字が使われてますが、「ワーカホリック」てのは聞いたことあるよね。
 ラブホリックてのは、恋愛中毒のこと。タイトルにもなってますね。
 愛することをやめよう。でも、愛さずにはいられない。そんな女心の機微どころか、強烈な性(さが)を描いた作品です。

 この本の構成は二重になってて、最初、出版プロダクションに勤務しはじめた20代の男性が登場します。
 で、この人、ストーカーにつきまとわれてるわけ。もうそろそろ、会社をつときめ、電話もありそうだな・・・と感じた頃、とうとう、その女が会社に電話してきます。会議中にね。
 そのとき、女性を外に連れ出し、うまくあしらったのが、「水無月」という冴えない中年の女事務員。
 ところが、ところが・・・。実はこの本、全体で400頁を楽に越える力作なんですが、この20代の男性というのはたんなる序章に過ぎません。この新人を励ます意味で、社長(水無月さんと大学の同郷生であり、最初の男でもある)が飲み屋に呼び出すんだけど、そこで最初に待ってたのが水無月さん。風邪気味の社長はすぐに帰らせ、この水無月さんと飲む。酔ううちに語り出す狂気の世界。
 それは、自分につきまとったストーカーと同じ性質の物語だった・・・というわけ。そこから、370頁くらい、水無月さんの独白という名の「純愛物語」が開幕することになります。

 「どうか、神様。
 いや、神様なんかにお願いするのはやめよう。
 どうか、どうか、私。
 これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
 愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
 私は好きな人の手を強く握りすぎる。相手が痛がっていることにすら気がつかない。だからもう二度と誰の手も握らないように。
 諦めると決めたことを、ちゃんときれいに諦めるように。二度と会わないと決めた人とは、本当に二度と会わないでいるように。
 私が私を裏切ることがないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。」

 そうは言っても、好きにならずにいられない。
 何度も何度も同じ失敗を繰り返す業(ごう)というあか、性(さが)というか、カルマのようなものを感じます。
 面白かったな。なぜかはわからないけど。「ブラナリア」で直木賞を受賞した女流作家の原点であり、渾身の一冊でもありますね。
 250円高。購入はこちら