2002年12月02日「コメント力を鍛える」「いい女の法則」「みんなのトニオちゃん」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「コメント力を鍛える」
 有田芳生著 NHK出版 640円

 有田さんといえば、統一教会問題とかオウム事件でテレビに出てきたと思ったら、いつの間にか、「ザ・ワイド」の常任コメンテーターみたいになっちゃいましたね。
 そうです、あの有田さんが書いた本です。
 本書のテーマはコメント力ですが、たくさんの話題に触れています。
 たとえば、自分の駆け出し時代のこと。
 彼は元々、「週刊サンケイ」といういまは無き週刊誌のフリーライターとして書き始めたんですね。
 「マネー人生」という4頁の連載を先輩と担当してたわけです。これはお金で苦労した話を著名人にしてもらうって企画ですね。取材は北杜夫さん、小沢昭一さん、赤塚不二夫さん、武田鉄矢さんといった面々で、そうとう、勉強になったと言ってます。
 人の苦労話ってのは、若い人、とくに自分が苦労していればしているほど、励みになりますもんね。やっばり、みんな、苦労してでかくなったんだ。そう思えるだけで、未来が開けてくる感じがしますもの。

 ところで、彼は沢木耕太郎さんには取材を断られてしまいます。こんなテーマじゃ、合いませんもの。
 でも、「会えませんか?」と依頼すると、「それはいいですよ」との返事。で、有田さんは自分自身の悩み事を相談しちゃうわけ。
 その悩みってのは、「フリーの物書きとして、仲間集団を作ったほうがいいかどうか」ということだったそうです。ひとりで仕事をしていることへの不安でいっぱいだったんでしょうね。
 「それは止めておいたほうがいい。もし寂しくなったら、友人と酒でも飲めばいいんです。あくまでも、書くということは一人の仕事ですから。フリーになって、5年頑張って暮らしが立ち行かなければ、もう一度、どこかに所属して働いたほうがいい」
 こんな返事だったらしいですよ。
 「どうしてですか?」
 「ずっとフリーにこだわって、かえって、悲惨な生活をしている人を何人も知っているから」「もし、フリーで生活できるなら、まずサイクルを作ること。原稿を書く。それが単行本になる。そして、文庫になる。そういう原稿を何冊か書くことで、自分がやりたいモノを書くことができるんですよ」
 「・・・また、お会いできますか?」
 「あなたが5年後、この世界で生きていれば、必ずどこかで会うことになるでしょう」
 沢木さんといえば、電波少年の猿岩石(あいつら、どこ行ったんだろうね)でも知られてますが、若者の永遠のバイブルとも言える「深夜特急」の著者ですよ。このスタンス、好きですね。

 ところで、テーマのコメントについて、こんな風に言及してました。
 コメントとは、「何かを見たり、聞いたりした後に、その対象について得ることができた自分の認識を凝縮した言葉」と定義してます。
 有田さんの企画術、メモ術、インタビュー術など、あっちに飛び、こっちに飛び、でもそれなりに面白い本だと思います。
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2 「いい女の法則」
 愛田武著 講談社 1500円

 この著者はちょび髭はやした顔でお馴染み。ホストクラブ「愛」グループのオーナーですね。愛本店、ニュー愛、愛ビブロスのホストクラブで、300人ものホストを擁している業界のドンですね。ほかにオナベクラブも経営してます。
 愛本店は、はとバスのコースでもあります。そういえば、この店には松野行秀さんも在籍してますね。あの女優の沢田亜矢子の元ご主人、ゴージャス松野と言えば、おわかりになりますでしょうか。

 33年前、この世界に足を踏み入れました。当時、「ナイト東京」がすでにオープンされてます。
 で、新宿歌舞伎町の風林会館にあったホストクラブ「ロイヤル」で6年後に働き出すんですね。その後、渋谷の「ナイト宮益」、東京駅八重洲口「ナイト東京」と、3回店を換えます。たくさんお金を使ってくれる客を「太い客」というけれども、こんな太い客が30人くらいはいたらしいですね。
 元々は某ベッド会社の営業マン。売ってるのがベッドで、セールス中にそのまま、そこの奥さんとできちゃったことが何回もあった、とか。
 現場でのホスト生活を経て、店の経営をはじめたのが、さらに3年後。その後は、この世界一本槍。
 ホストクラブの内装はきらびやか。豪華の一言ですね。といっても、わたしは一度も行ったことがありませんけど。なんでも、金と銀と緑が主だとか。そりゃ、派手にもなりますよ。
 内装に8千万円かけてるらしいですね。

 ホストクラブというのは、 以前は、ホストが店に所場代を払うのが普通だったんですね。
 だが、この人がやり方を換えます。業界の革命児だったんですね。
 店の経営者にとっては、売上はホストの質が勝負です。となると、いいホストがいればいるだけ儲かる。こんなことはだれでもわかります。ということは、逆にごっそり引き抜かれちゃうと終わりなわけ。
 だから、売上に関係なく、ホストに日当を払うことにします。前借りもさせます。「バンス」という支度金も渡します。つまり、金で引き留めてしまうわけですね。で、それぞれのホストが店という箱を借りて営業する。つまり、プロ野球選手みたいな自営業者の集まりってことですよ。
 
 ところで、ナンバーワンになる男というのは、やっぱり違うんです。
 服装や身だしなみはもちろん、細かいところによく目がつく、話題豊富、男女の駆け引きのツボを心得ています。
 当然、ホストは努力します。努力しないホストは、はやばん、出て行くことになります。売れっ子ホストの条件は、なんと言っても「まめ」であることです。
 「この前より、今日のほうが似合ってるよ」
 「髪型、変えたんだね」
 すなわち、お客は「愛してもらう」という以前に、自分のことをわかってほしくて、慰めてほしくて通い詰めるんですよ。
 ホストクラブは、日常生活では味わえない世界を堪能できます。男性が接待してくれる。姫、女王として扱ってくれるんですからね。

 ところで、ホストも商売抜きで惚れるお客がいるんですね。
 「一線を越えたい」という女がいるんです。それはきれいな人、話し上手な人、気遣いのできる人、いろいろあるけれども、ベストは「品のある人」。
 自分にないものを欲しがるもんです。
 でもね、自分から惚れても、けっしてそうは見せない。女性の気を引いて、あたかも相手から惚れられたかのような形を作る。それがプロですね。
 たとえば、相手の目をじっと見る。
 「ここだけの話だけど、うざいお客さんって、わりと多いんだよね。君みたいなお客さんばかりじゃないんだ」
 こんなセリフで釣るわけですね。

 「ホストクラブという舞台で、いかに女は美しくなっていくか、いかに破滅していくか」を描きたい。そう語っている通り、いろんな男女が登場します。
 中には、極妻に手を出したホストも登場します。手下が何人も店にやってきます。
 「いませんよ」
 「隠すな」
 「ホントにいないんです」
 そうやって、「逃げて欲しい」と願っても結局、逃げ切れなかった。群馬の山中で死体となって発見されたそうです。
 この世界、バカにされたら終わりですからね。自分の女を取られたともなれば、子分たちにも示しがつきませんもの。

 さて、ホストと言えば、収入ですね。
 売上も月に数百万円というのはざらで、「最高で一千万円」という記録もあるそうですが、わたしはこれは嘘だと思いますよ。というのも、ある人から「毎月、3千万円は遣ってる」と聞いたことがありますもの。
 で、プレゼントにしても、ベンツ、ベントレーなんかは当たり前。リュックに現金しょって遊びに来るって話を聞いたことがあります。バブルの時の話ではありません。つい、こないだの話ですよ。
 お客にしても、毎回、同じホストを指名するから、いつの間にか、信頼感、連帯感が生まれてくるそうです。そうなると、自分のホストにナンバーワンを取らせたくなるのが人情ですよ。
 「当店のナンバーワンホスト」として額に飾られるわけ。これがメダルですものね。こうなると、「自分がナンバーワンにさせた」という満足感でいっぱいになるんです。

 プレゼントも半ぱゃ半端じゃありません。
 ある日、誕生日を迎えたホストにひまわりの花が10本も届きます。それぞれ2メートル近くあるごついやつ。
 ところが、よく見ると、花の所に何かがくくりつけられています。それがすべて一万円札。数えると、全部で一千万円分あった。
 「安いけれども、心がこもったプレゼント」なんてことは、この世界にはないんです。金がすべて、それがホストの世界です。もちろん、ホステスの世界もそうですよ。
 金でサービスを売ってるわけですからね。
 200円高。購入はこちら


3 「みんなのトニオちゃん」
 菅原そうた著 文芸社 1600円

 「週刊SPA」に連載されていたらしいんだけど、この雑誌、読んだこと無いから知りませんでした。かなり、シュールな内容なんですが、一部では話題になったらしいよ。
 なんてたって、著者は19歳の天才ですからね。

 でもね、3Dの本なんだけど、見にくいのなんの。3Dってのは、すべてに焦点が合っちゃうから、かえって見にくいんだよね。

 ところで、ストーリーの中で傑出していたのが一つありました。「アルバイト情報」という話です。

 「どっかにいいバイトないかなぁ」とスネ郎とジャイ太が悩んでいます。すると、トニオちゃんがこう言うんです。
 「いいかどうかわからないけど、一瞬で100万円稼げるバイトがあるよ」
 仕事内容はいたって簡単。ちょっと一瞬、ボタンを押すだけ。
 でもね、ボタンを押した瞬間、ワープして、5億年間もの間、「ただひたすら生きてろ」というバイトなんです。寝られません。人と会話もできません。周囲は真っ暗闇です。何もない空間。そこで5億年間もの間、ひたすら呼吸をして生きるんです。もちろん、死ぬこともできませんよ。

 そして5億年経った瞬間には、またまたワープして元の場所に戻れます。それまでの記憶はすべて消去されてしまいます。
 ということは、本人にしてみれば、「ボタンを押したあの瞬間に戻っただけ」ということになりますね。
 繰り返します。5億年もの間、なーんにもしないで、一人でずうううっと生きている。でも、終わった瞬間、記憶はリセットされてしまうわけ。で、目の前には百万円の束がある。こんなバイトです。
 やりますか、あなた?

 ジャイ太はやるんです。
 そして、それを見ていた二人は「どうだった?」と聞きます。もちろん、記憶はありませんからね。「ただボタン押しただけだよ。えっ、こんなんで百何円くれるの?」と喜んでるわけ。
 で、もう一回、チャレンジしちゃう。そして、百万円を手に入れます。

 それを見ていたスネ郎は「オレにもやらせてくれ」とボタンを押してしまうんですね。
 すると、ワープして、別世界に飛んでしまいます。
 気づくと、そこは5億年の世界。ここでとことん生きるわけですが、さすがに手持ちぶさたですからね。最初は一人ジャンケンなんかをするわけ。どうやるって、右手と左手で勝負するだけですよ。
 でもね、こんなことはすぐ飽きちゃう。で、今度は妄想の世界に耽るわけ。これも40年間やって飽きてしまいます。こうなると、もう何もする気が無くなるわけ。そして、100年過ぎます。
 あと、499999900年もあります。これだけ先が長いと、人間はもう考えることすらしなくなります。最後の最後は悟りきっちゃうんですね。

 そして、5億年後によみがえる。それまでの記憶は消去されてますからね。目の前には100万円の束があるだけです。
 で、それを見た瞬間、ガンガン押しちゃうわけ。
 トータル5億年間、往復16コースの開始です・・・。さて、どうする、こんな時間?
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