2002年08月05日「代表取締役という選択」「”全身漫画”家」「虹になりたい」
1 「代表取締役という選択」
津田倫男著 主婦の友社 1800円
著者は一橋からスタンフォード経営大学院卒の元三和銀行マン。それから、外資系金融機関を何社か転職し、今年、ベンチャーキャピタリストとして独立したというキャリアの人ですね。
一貫して、ベンチャー企業の発掘、育成、指導などを得意とされています。
マインドも良し、フットワークはさらに良し。年齢のわりに落ち着いた人です。MBAにありがちな頭でっかち、数字でっかちといったところが感じられないのが、またいいところでしょうな。
実は、著者はキーマンネットワークのメンバーなんですね。
数年前、わたしが松江から出雲に向かって車を走らせていたとき、携帯に電話がかかってきたことがありました。
「なに?」
「別に」
どんな連絡か、すっかり忘れてしまいました。どうせ他愛のないことだったんでしょう。
「いまね、松江から出雲に向かってるの。大社に行こうと思ってね」
「えっ、ボク、松江出身なんですよ。また、松江に戻りますか?」
「戻るよ」
「じゃ、親父に会ってくださいよ。松江城の近くで家具屋やってますから」
翌日、松江に戻るや、親父さんと会って話を聞いてたら、ものすごいインテリ。郷土史から政治経済の話題まで、広く教えてくれました。近くの喫茶店からコーヒーを取ってくれたり、「今夜、時間あります?」とご馳走までしてくれるという(残念ながら、ほかの会合が先約であったためにご一緒できなかったけれど)。
あとがきを見ると、亡くなったと書かれてます。返す返すも残念!
本書は長年のベンチャーキャピタリストとしての経験を背景に、若者、中高年、それぞれの独立、転職に対するアドバイスを具体的、かつ、実名、仮名をあげて紹介しています。とくに「現場ではこう考えている」という意見は貴重だと思います。実際、役に立つのはこういう裏話、実話なんですよね。
たとえば、「以下の5点はまずチェック」という項目があります。
1ビジネス・コンセプトの練り上げはできているか。
2ITをどの程度使うか。
3仲間をどう集めるか。
4資本金をだれからいくら集めるか。
5アウトソースと外部アドバイザーはどう使うか。
こう書いちゃうとシンプルなんだけど、これが奥が深いのね。
1ビジネス・コンセプトにしたって、マーケットはあるか(規模、人口、地域、社会階層、年齢別・・・)、顧客はだれか、競争相手に勝てるか、どうやって顧客を獲得するか・・・などを踏まえた上で、自社の製品、サービスを利益を出しながら売って行かねばならないわけ。
たとえば、あのアサヒビールが起死回生の思いで出したスーパードライ。あの時、ガリバー企業の麒麟麦酒はどうしたか?
「どうせたいしたことないよ」と油断していたんです。すなわち、対抗商品を出さなかったわけ。それで、どんどんシェアを喰われちゃった。「やばい!」と気づいて、本格的な市場調査に取りかかります。この段階でも「ラガー」の強みを過信するあまり、まだまだ本気ではありません。
消費者の嗜好が生ビールへとシフトしたことをしぶしぶ認めた後で、ようやく出てきたのが「一番搾り」ですよ。
この初動の遅れのために、いつの間にか、シェア逆転。とうとうビール業界下克上時代を迎えてしまった、というわけです。
さて、ベンチャー投資と入っても、投資スタンスによってがらりと変わってくるのは当たり前。
ベンチャーキャピタルは、いま、外資系、メーカー系、銀行系、証券系など、東京近郊だけで200社、全国では500社くらいはあるだろう、といわれてます。
創業後の早い段階から資金を入れることを旨としてますから、ウイナーを見付ける目利きであることが大事ですし、同時に、ルーザーがわかった段階で「見切り」「損切り」ができないとダラダラ赤字を垂れ流すことになりますね。
ということは、ベンチャーキャピタルは短期間でいかにパフォーマンスのいいリターンを獲得するか。ここが勝負になります。
「独創的な技術よりも、マーケットが受け容れやすい技術」
「売上が急速に伸びているかが、利益が追いつかない級成長企業よりも、利益を少しでも増やしつつある会社」
こういう会社を高く評価してくれるわけです。
ベンチャーキャピタルは起業家のどこを見てるでしょうか?
1市場性。
2新規制、独創性。
3収益性。
4経営陣。
この4つです。
でもね、「現在、市場はゼロ。ただし、2年後には1000億円となる」と、起業家が太鼓判押しても、それって信用できますか。それはほとんど実現不可能と考えるのが人間です。
「そんな起業家は食わせ物か、過剰に自信を持ってる人」と結論付けざるをえませんよ。だから、「1000億円に2年間で成長する可能性もあるけれども、現実的に見て、くまず100億円のマーケットと考えて、手を打っていく」と説明したほうがベターです。
収益性にしても、ポイントは起業家がいつの段階で黒字転換できるかと判断しているか。そこなんですね。これがいい加減だと「数字に弱い経営者」と信用ガタ落ちです。
「そのうち」「いずれ」ではダメなんです。
最後に「こういう企業に投資する」という項目をあげておきましょう。
1市場、顧客や大衆のニーズを見通す力がある。
2構想大胆、着手細心の両面を持つ。
3「これはだれにも負けない」という得意分野を持っている。
4マスコミを上手に味方につける。
5外部の意見に耳を傾ける謙虚さがある。
6社長以下、経営陣が精神的にタフで、難局にあたってもへこたれない。
どうですか?
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2 「”全身漫画”家」
江川達也著 集英社 700円
著者はというより、インタビューに答えてまとめた1冊ですね。だから、語りおろしってヤツですな。
著者は「まじかる☆タルるーとくん」「東京大学物語」「日露戦争物語」といった漫画で超売れっ子なんです。といっても、わたしはどれも読んだこと無いけど。
でも、帯コピーが「超人気漫画家の発想とわれわれとどこが違うのか」とあったんで、平々凡々なわたしとしては憧れを持ってすぐに購入してしまった、というわけです。
で、超人気漫画家の発想とは、結局、「好きなことがしたかった」という一点だけだったのではないでしょうか。
好きなことを早く見つけられるってのは、おそらく、きわめて大事なことだと思うのです。これは能力だと思っていいです。それだけすごいことです。
著者は元もと、愛知教育大学を出て、3カ月だけ中学で数学の教師をしてたんですね。
でも、「中学じゃ変えられない」と気づいて、方向転換。ホントは小学校の先生志望だったんだけど、この業界は少子化と上が詰まってるから就職が難しいんだよね。いま、小学校に行ってごらん。おばさん先生ばかりだもんね。
子どもだって、若いピチピチ先生を期待してると思うんだけどね(違うかなぁ)。
それに保身と進歩のないくだらない同僚教師たちの実像を見て、嫌気が差したんだと思うのです。
「先生は漫画家になる」というや、生徒からヤンヤ、ヤンヤ。
歓呼の声に送られて状況したってわけですね。
弟子入り先は本宮ひろしさんのところ。本当は水木しげるさんを師匠としたかったみたいだけど、師匠に影響されると、超えられないからね。
本宮さんは「俺の空」「男一匹ガキ大将」「サラリーマン金太郎」などで、もう売れっ子中の売れっ子でしたものね。この人の漫画はわたしもすべて読んでます。「俺の空」は豪華本で持ってますよ。
でも、本宮さんにして大正解。この人はビジネスセンスのある漫画家で、自社ビル持ってるんだよね。
仕事はアシスタントを上手にさばいて、流れ作業なわけ。本人はいちばん大事な目と口だけを描くんです。
じゃ、暇だね?
そうだと思います。で、その浮いた時間で「ネーム」のことを考えるんですね。
このネームってのはおそらく、ジャーゴンだと思うんだけど、きっと、「漫画のコンセプト」とか「あら筋」「ストーリー展開」といった意味ではないかしらね。
で、ネームを見せては、「これ売れると思うか?」と聞くらしい。
「面白いか?」「なにか感じるか?」でもなく、「これ、売れるか?」
いいねぇ、こういうセンス。大好きです。
売れなければ、漫画を書き続けることってできないもの。あらゆるプロにとって、売れ続けるってことは、もっとも重要なことなのよ。社会的意義だとか、使命感といったものは、売れてから考えればいいこと。まずは、売れなくちゃ話になりません。
売れなければ、みんなに迷惑がかかりますからね。
で、こういうセンスを身につけて、続々と仕事をしていきます。あとは本文、読んでください。
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3 「虹になりたい」
雪村いづみ著 潮出版社 1200円
雪村いづみって知ってるかなぁ。「朝比奈マリアのお母さん」っていったほうがわかるかも。
三人娘といったら、よけい、わからなくなるな。でも、その昔、美空ひばり、江利チエミと三人で映画を撮ったりして、一世を風靡してたんです。
「今ごろ、なんで、雪村いづみなの?」と思うでしょうが、実は先日、ある人をインタビューしたところ、彼女の歌を紹介してくれたんですね。
それが「約束」っていう歌なんです。この詩がいいのね。で、ついでにこの人の本も読んじゃえと、読んだら面白かったんです。
約束という詩は、ボクが遊んでいるとパパが「急いで帰るんだ」と迎えに来た。ママがおまえに会いたいって言ってる。
「そいじゃ、ママは死んじゃうの?」
「そうだ」
「お前は男の子だから、男らしく。これが約束」
でも、どんなに努力しても、ママが死んだとき、ボクは泣いちゃった。約束は守れなかった。やっぱり泣いた。
でも、翌年、あの戦争でパパが親だと聞いたとき、ボクは涙をこらえた。ボクはそのとき、約束を守った・・・という歌なんですね。
CDを買って聞きましたか、これより「愛する人に唄わせないで」のほうがずっと良かったな。
雪村いづみさんは頭場ずば抜けていいんですが、学校に行けなかったんですね。それは家が破産してたからです。
飛びっきりの美人だった母親があれこれ、事業をするんですが、ことごとく失敗。で、学費が払えない。
そこで俳優座の試験を受けるんですが、これも年齢があまりにも若くて不合格。
「来年、またおいで」と主宰者に言われますが、二度と来ることはありませんでした。
もうプロの売れっ子歌手になってたからですね。もしこのとき、俳優座に入っていたとしたら、仲代達矢さんと同期ですよ。
プロになるのもひょんなことからです。
外国人の家庭でメイドを雇う話があったんです。それに彼女は応募するわけ。採用が決まって、面接すると、相手のミセス・パロットは「こんなに可愛くて、か弱い娘をメイドにはできない」と同情するんですね。
で、仕事はパー。
その帰り道、「景気づけにアイスでも食べようか」と行ったのが新橋のフロリダ。
ここはダンスホールもあるし、歌手が歌ってるところ。そこの支配人に聞くだけ聞いてみようってわけで、「英語の唄を歌えるよ」とセールスするわけ。すると、じゃ、やってごらんとばかり、いきなり楽団をバックに歌うチャンスを与えられます。
もちろん、唄はうまいですから、即、合格。
翌年には、レコード会社が目をつけて、発売した曲が大ヒット。これが「ブルー・カナリヤ」です。その後、立て続けにヒットを出します。
同時に、お金が入ってくると、母親の事業欲がクビをもたげてきて、また失敗。彼女はキャバレーに出演したりして、何十年もかけて払い続けていくわけですよ。
その間、いろんな男性と恋をします。
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