2002年06月10日「すべては一杯のコーヒーから」「倒産! FMW」「政治家の実戦心理術」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「すべては一杯のコーヒーから」
 松田光太著 新潮社 1300円

 力作です。著者の魂、思いが込められた本です。
 著者は帰国子女で、元三和銀行出身の34歳。で、5年前に銀座にタリーズコーヒージャパンをオープンし、昨年、上場させてしまいました。
 創意工夫と汗と涙でつかみとった「ドリームズ・カム・トルゥ」の物語です。

 父親の関係で、幼稚園の時にセネガルへ。
 ここはアフリカの西海岸。たしか、昔、象牙海岸とか言われてたとこじゃないかな(違ってたらゴメン)。「パリ−ダカ」のラリーで知られるダカールが首都ですね。
 そこでは「中国人」と言われ、それから5年後、今度も父親の転勤でマサチューセッツはレキシントンへ。ここでは「アフリカ人」と呼ばれ、大学(筑波大学の帰国子女枠に合格)でやっと日本に戻ってきたんですけど、ここでは「アメリカ人」と呼ばれる始末。
 
 たんなるガリ勉タイプではありません。
 銀行時代も新規融資のトップ営業マンだったとか。2年連続で優績者として表彰されるはずだったのに、支店幹部が彼の同僚や後輩に成績を付け替えていたためにパー。
 さすがに、これはフェアではありませんね。
 カンカンに怒った彼がねじ込むと、彼はなんといったか、「君はいずれ、出世する。だから、できない社員の気持ちがわかるためにも、いま、挫折を経験しておいたほうがいい」だと。
 これを余計なお世話と言わずして、なんというんでしょうか。
 挫折ってのは、他人が決める問題じゃないんですよ。あくまでも、本人の気持ち次第なんです。著者はプラス発想で自分を励まして生きるタイプだから、くよくよ挫折感に打ちひしがれている暇人じゃないんです。
 アホちゃうか、と思いますね。

 それに下らない内規ばかりがはびこっている組織。どんなにセールスしようと、午前11時半〜12時までにいったん帰社すること。外で昼飯をとるのが禁止なのね。女子行員が制服のまま、外を歩いてはダメ。でも、丸の内界隈はOK。
 で、昼を取ってまたセールス。そして午後4時までには帰社すること。これを守らないと、叱られるわけです。
 支店の考査もバカのひと言。なにを考査してるかというと、行員の机の中。商店街で配布されてる割引券とか5円玉なんて見つかったら、もう大変。それだけで最低のD評価にされちゃうんです。
 こんなことがベースに流れて、彼はいつか銀行なんて辞めて事業家になりたい、と考えたんでしょう。

 95年12月、友人の結婚式でボストンを訪れます。
 そこで見た風景。アメリカ人がコーヒーを買うために行列してるんです。
 「あれ、そんな人種だったっけ?」
 テイクアウトのコーヒーの値段がなんと3ドル。金持ちになったのか・・・。
 「まぁ、いっぱい飲んでみろよ」
 言われるままに、飲む。
 「コーヒーを飲んで、美味しいと感じたのは生まれて初めて。これがスペシャルティ・コーヒーか・・・」

 実は、わたしはコーヒーが飲めないんです。
 お茶は幼稚園児の時から、1日1〜2リットルも飲むほどの通だ、と思います。日本酒が大好きで、ワインとビールがダメ。子どもの頃は牛乳がダメ。
 日本人もコーヒー好きですよね。親戚の集まりがあって、お茶とコーヒーを用意したら、ほとんど、コーヒーなんですよ。爺様、婆様までがコーヒー。
 これはカルチャーショックでした。やっぱり、嫌いでもタリーズやスタバに入らないといけませんね。そうなんです。本は読んだんですが、ここのコーヒー、まだ飲んでないんです。

 タリーズの本社はシアトルにあります。スタバと同じですね。スタバは大チェーン店ですが、タリーズはまだまだローカル・クラス。
 著者もスタバを日本に上陸させたい、と内心、考えていたようですよ。でも、先を越されてしまった。
 「でも、ボクが上陸させるなら、こうするという点がいくつも目についた」

 彼はタリーズ本社にEメールを毎日、熱心に送ります。銀行から戻って、深夜、パソコンに向かうわけですね。
 結局、これは96年6月に退職するまでほぼ週1のペースで進みます。

 ある日、意を決してタリーズ本社に電話を掛けます。
 CEOであるトム・オキーフとアポを取るためです。日本の他社に契約をされたら、出る幕がありませんものね。
 「残念ながら出張中です」
 「どちらに」
 「日本に」
 「!」
 で、返事も待たずに宿泊先の帝国ホテルに行っちゃうんですね、携帯かけながら・・・。
 
 運良く、会おうということになった。
 「昼飯でも食おう」
 帝国ホテルの地下にはうまい寿司屋があります。そこで2時間、話し込んじゃうわけ。
 トムのパートナーであるアールジェイ・セルフリッジも一緒。この人はEメールも見てくれてたし、何かと協力してくれるわけ。
 「まだ、契約まで到ってはないけど、複数の日本企業と話を詰めている。いまのところ、有力なのは流通系の大手だな。その会社はスーパーの一角にタリーズを出店させてくれるらしい。そうなれば、一気に展開できる・・・」
 「それは間違いです!」
 「どういうこと?」
 「大手流通系だとすると、銀座、青山といった一等地には店はない。それでは一流ブランドとしてのイメージを確立することはできない。日本でいま人気の格安コーヒーショップに対抗するには、ブランドビルディングからはじめるべきです。スペシャリティ・コーヒーとは格安コーヒーにはない付加価値を売るビジネスですです。1号店の出店場所にもこだわらなくては・・」
 「君なら、どこにする?」
 「銀座です」

 そんなことをいってる著者は、資金などありません。当然、銀座に出店するなんて夢のまた夢なんですね。でも、何ものにも代え難いだけの知恵と情熱があった。とくに、情熱は次々に「運」を引き寄せます。
 資金がない。役所仕事に邪魔される。社員教育、パートナーとのトラブル、続々と問題が発生します。
 でも、持ち前の知恵と情熱で次々に解決していきます。
 いったい、どんな風に?
 あとは中身を読んでください。
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2 「倒産! FMW」
 荒井昌一著 徳間書店 1300円

 2002年2月14日、西新宿の高層ビルが立ち並ぶオフィス街の一角。ここに全国チエーンのカフェがあります。
 そこにどうも違和感のある男たちが10数人。
 黒の背広にド派手なネクタイ。一目見て、その筋の人間とわかる出で立ち。
 で、その連中が1人のしょげかえった男を取り囲んでいます。大声を上げる男たち。客は視線をチラチラと送ります。
 男の名前は荒井昌一。本書の著者です。で、男たちとは、彼に金を貸したウラ金融の人間たちの一部です。10数人といっても、一部なんです。なにしろ、この人は28社ものウラ、オモテ入り乱れて金を借りまくってきたんです。

 この2月14日とは、彼が社長を務めるインディー・プロレス団体FMWが1回目の不渡りを出した日、ウラ金融の業界用語では「トンダ」、銀行などのオモテ業界では「片目をつぶった」(倒産は「両目をつぶった」)という日なんです。
 本書は、彼が社長になってから倒産するまでの悲喜こもごもの体験を綴った実話です。
 「あっ、こんなことしてちゃダメだよ」
 「コイツって、なんてワルなんだろう」
 「社長としての自覚が足りないな」
 いろんなことを感じさせます。ですが、わたしがもっとも強く感じたのは、「ボタンの掛け違い」ということでした。これが最初から最後までつきまとって離れませんでした。
 結果として会社を倒産させて、多方面に迷惑を掛けてるんですけど、少なくとも著者のプロレスにかける情熱だけは伝わってきます。でもなぁ、やっぱり社長が右顧左眄してちゃダメだよなぁ。断固として、はねつける・・・よしましょう、もう終わったことです。

 FMWと言えば、みなさんもご存じの通り、大仁田厚さんが作ったプロレス団体ですね。
 「5万円で創業した」という伝説の団体ですよ。なにしろ、ジャイアント馬場さん率いる全日本プロレス、アントニオ猪木さんの新日本プロレス。この2大団体があるため、どうしても第3の団体が生まれませんでした。
 「プロレス団体なんて、テレビがつかなきゃ、すぐ倒産だ。よせよせ、そんなこと」
 これがこの業界の常識だったんです。
 でもね、これはどうやら新団体を作らせないために、先達がばらまいた「常識」だったようです。
 実際に、大仁田さんがFMWを設立すると、なんとか、ペイしてきたんです。その後、かの「有刺鉄線電流爆破金網デスマッチ」など、独特な格闘技路線を展開します。さらに、リングから、説教なのか、自己陶酔なのか、とにかく、涙ながらに自分のメッセージを伝える大仁田さんに共感するファンが増え、興行的にも十分に成り立つ団体を作り上げたわけですね。
 大したものです。

 大仁田さんという人は馬場さんの付き人からスタートし、プロレスラーとしては体重が軽いんですが、ジュニア・ヘビー級のチャンピオンにもなったこともあるんです。
 でも、膝を破砕してしまって引退を余儀なくされます。
 退職金で買った土地がバブルで高騰。で、いろんな事業を手がけたものの失敗。で、もう1度、プロレス界に戻ろうとするんですが、どこも受け付けてくれません。
 だって、3流選手だったものね。で、女子プロレスの営業マンなんかをしてでも、プロレスに近づきたかったわけです。
 ついに1989年、知人から資金を借りて団体を興します。それが、いま述べてきたFMWですね。

 ところで、この荒井さんなんですが、子どもの頃からいじめられ役。ネガティブで自信がない。で、考え込んじゃうタイプのようです。
 その人でも、プロレスの大ファン。子どもの頃から国際プロレス(これもマイナーなんだな)を見に行っていたそうな。いじめられてばかりいたから、強くなりたいという憧れがあったんだろうね。

 さて、FMWの旗揚げの時にリングアナウンサーを募集しました。
 それに応募し、すぐに採用されたのが著者なんです。別にアナウンサーの勉強などしてません。河原で一夜漬けで発声練習しただけとか。
 アナ初日に、マイクで選手紹介をするところ、音が出ない。とっさにマイクを置いて、大きな声で紹介したとか。
 これが大仁田さんに褒められます。
 「おまえ、いいよ。日本一のリングアナになれるよ」
 以来、彼は大仁田さんに褒められることばかり考えて、仕事をします。

 でもね、これだから、大仁田さんの暴走を止められなかったんでしょうな。

 大仁田さんという人は良くも悪しくも「お山の大将」でなければ気にくわない。
 たとえば、若手のハヤブサという選手の人気が鰻登りになるにしたがって、詰まらなくなる。そこで邪魔にかかるわけですね。
 象徴的なケースでは、自分の引退試合でのこと。すべては脚本がありますから、選手はその通りに演じます。このハヤブサ選手に土下座をさせる。「あなたと試合をするのが夢です。お願いします」とね。
 それをはねつけるわけです。
 引退興行も全国を1年かけてツアーで歩きます。ずいぶん儲かったと思いますが、ほとんどを自分の退職金にするんですね。それで芸能界に飛び込んで行きます。

 芸能界に行った後は、FMWを潰すつもりだったんでしょう。
 でも、荒井さんは選手のことを考えて、このまま継続しようと考えた。だれも社長のなり手がいなかったから、自分でやった。社長兼小間使いのようなものですよ。
 その後、ハヤブサを中心に大仁田路線から脱却を図り、徐々にファンを積み上げていきます。興業でも利益を出せるようになりました。
 ケーブルテレビ、衛星放送との契約も入る。
 「これでなんとかやっていけそうだ」
 そうホッとしたのもつかの間、大仁田さんから連絡が入ります。
 「オレ、そろそろ復帰しないといけないと思うんだ」
 まだ引退して、数カ月ですよ。1年間の引退興業までして、これはいくらなんでも無理でしょう。
 でも、また、復帰、復帰と言い出すわけです。FMWの時のように、芸能界でスター扱いされないのが不満だったんですね。

 社長てせもないのに、勝手に復帰の記者会見を開きます。そして、マネジメントにも乗り込んでくるわけですね。
 最大のマネジメントとはマッチメイク(試合の相手を決めること)ですね。もちろん、ハヤブサなどは目立たないようにします。主役は自分1人。
 でも、ファンは黙っていません。大仁田さんが登場するなり、ブーイングの嵐。それでもめげずに、自己陶酔して1人芝居というか、例のスピーチがはじまるわけですよ。
 この時、彼の復帰を止められなかったことが、倒産へと繋がっていきます。
 収益を勝手に持ち出す。借金を肩代わりさせる。関係先との契約を自分の都合のいいように変える。果ては、ハヤブサ選手を除いた新団体を設立しようと画策する。
 大仁田さんは政界に進出しましたが(公設秘書が、なんとスポーツ用品会社の元社員で、『さらば、桑田真澄』の著者として彼のウラ面を暴露し、その後、プロレスラーに転じた中牧昭二さんですよ)、本書を見る限り、この人なら、「政治屋」を立派に務めることができるでしょう。太鼓判を押します。

 とばっちりは社長である荒井さんに来ます。どんどん現金がなくなる。それを自分の預貯金の持ち出しはもとより、親、親戚まで頼って工面します。
 「そこまですることないでしょう?」
 奥さんの意見はもっともですよ。なにしろ、奥さんの両親名義の不動産権利書まで持ち出そうとしたんですから。
 あの「腎臓売れ」「メンタマ、売れ」で有名な日栄、商工ファンドのお得意さんですよ。挙げ句の果てはウラ金融に手を出し、連帯保証人になっていた両親は自己破産、家は競売、元奥さんと建てた家も金融機関に占有されている始末。自分は離婚。元奥さんの許可がないと子どもにも会えない日々。
 踏んだり蹴ったりです。
 それでも、もう1度、プロレスの世界に身を投じたいとか。よっぽど好きなんだな。
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3 「政治家の実戦心理術」
 向谷匡史著 ベストセラーズ 1400円

 やくざ、ホストに続く実戦心理学第3弾。やくざ篇がいちばん面白かったけど、これからどう続くんでしょうか。

 さて、政治家という人種の頭の中身やいかん。
 「私は自然保護に賛成です! しかるに、わが党は開発を強力に推進しているのであります!」
 つまり、「私いいけど、党が反対なんだ。この苦しい立場をわかってくれ。でも、みなさんのために私は頑張ります」というメッセージなんですね、これ。もちろん、ホントの腹の内はわかりません。
 そんなこと、政治家ならみんなご承知。で、採決で党の方針通りにするや、「こうなれば、どんなに悪法なのか通して、その実態をさらけ出してやる」なんて、論旨をすり替えちゃうわけ。
 ああいえば、こういうなんてのは、オウムの幹部よりも上手なんだから、政治家なんて。あのムネオちゃん、見たらわかるでしょ。

 ところで、ムネオちゃんも集金能力が凄かったけど、加藤紘一さんなど、平成11年の政治資金報告書では堂々の第2位。1位は亀井静香さんですね。
 この人もねぇ、自分の当選だけ考える分には金なんかいらんのよ。でも、総理になりたいもんだから、子分を集めないといかんのです。で、詐欺師に名刺もたせて商売やらせたわけ。それが致命傷になりました。
 ムネムネ会11人衆なんて、ヤバくなったら見事な掌返し。でも、こういう人間でないと、政治家は務まりません。
 
 でも、加藤さんもガックリ来てると思うよ。金無し、子分無し、政策なんて「郵政民営化」しか無い人間が総理になれて、危ない橋を渡ってまで金集めした自分が追放されちゃったんだから。
 この一連の動きを見てる若手の政治家なんて、これから子分集めしようなんて考えないだろうな。

 「金帰火来」の政治家は分刻みの忙しさ。現地滞在1時間という政治家も少なくないわけ。
 でも、それでも帰って義理を果たす。結婚式などに招待されたら、駆けつけるわけ。
 わずか1時間でもでもね、
 「たった1時間じゃ、アピールできない。だから、行かない」というのは新人政治家。「1時間あれば十分」というのがベテラン。
 「あのセンセは忙しいのに、なんとか駆けつけてくれた」
 これが口コミで広がることを知っているわけ。
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