2010年09月29日「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 スコット・フィッツジェラルド著 イースト・ブレス 1365円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「人生のいちばんいいときは最初にやってきて、いちばん悪いときは最後にくる、ってのは辛いよなあ」
 マーク・トウェインの独り言にヒントを得て書いたのがこの小説なんですね。

 ・・・というよりも、ブラビとケイト・ブランシェットのあの映画ですよ、といったほうがご存じかもしれませんな。

 私もこの映画、大好きです。DVDも持ってますし、本編もいいけど、デビッド・フィンチャー監督が自ら解説する特別版も同じくらい面白いですから、ぜひ、そちらもチェックしてほしいね。



 スコット・フィッツジェラルドというと、『グレイト・ギャツビー』とか『バビロンに還る』などが有名でしょうね。私、実は、ほとんど作品を読んでます。最近、村上春樹さんが翻訳版を出してますけど、この『ベンジャミン・バトン』はまだないんじゃないかな。いまのとこ。

 さて、小説は、映画とはゼンゼンとは言わないまでも、カナリ違います。ストーリーがね。映画から見ればシナリオね。

 どちらが好きか? う〜ん、どちらも好きですな。脚本家のエリック・ロスは原作をベースにしてまったくちがう物語を書いてしまった、ともいえるわけでね。そして傑作なんですよ、これが。
 ご存じの通り、「アカデミー賞確実」と下馬評で言われてたけど、「スラムドッグ$ミリオネア」にかっさらわれてしまいましたよね。そうです、あの時の映画なのよ。

 小説にも映画にも共通することは、バトン家に赤ん坊が生まれた。その赤ん坊は老人として生まれ、成長するにつれてどんどん若返り、最後は赤ん坊として死んだ(参考まで私は「死んだ」とは絶対に言いません。「母の子宮に還った」と言います)。

 主人公はこの数奇な人生を受け容れ、さまざまな出来事を愉しんで過ごす。もちろん艱難辛苦みたいなのはあるけど、明るいんだよなぁ、彼は。

 映画とは結婚相手も違うし、そもそも父親は生まれたばかりのベンを捨てなかったし、当然、途中でベンに近づき、友達として過ごすこともなかったし、ま、自分の全資産を譲るということは結果として同じかな。
 拾ってくれた黒人女性が自己のはっきりした人間でね、わが子として愛情たっぷりに育ちます。苦労はするけど、いい青年に育つんです。

 エリック・ロスの脚本の素晴らしさは、老人ホームを経営する黒人女性に拾われた、という仕掛けね。赤ん坊のくせに彼らに馴染んでしまうわけ。ここらへん、原作よりもお見事かな。

 ただ、自分がどんどん若返るのに反して、デイジーとの間に生まれた娘(小説では息子なのよ)は、最初は赤ん坊だけど(当たり前ですけど)成長するわけね。で、「子どもが2人いたら大変だよ」と妻を説得し、バイクにまたがって行き先のない旅に出る。つまり身を引くわけですね。

 でも10数年後、デイジーの前にベンが・・・続きはこちらからどうぞ。