2002年02月25日「MBA社長のロジカル・マネジメント 私の方法」「童謡の謎」「編集長『秘話』」
1 「MBA社長のロジカル・マネジメント 私の方法」
山田修著 講談社 1800円
以前、同じ著者で「人を見抜く技術」という本を紹介したことがありますが、第2弾というよりも、内容的にものすごくバージョンアップしてますし、こっちの本のほうが本家本元、元祖という気がします。アマゾン・ブックウエブで総合第1位というのも頷ける内容です。
ここ最近、ビジネスマンの中でも大学院に通い出したり、留学したりする人が激増してますね。やっぱり、普通の人じゃ、いつクビを切られるかわかりませんものね。戦うには武器が必要ですよ。「それも竹槍よりはミサイルとか核爆弾とかがいいし」ってんで、MBAてことになるんでしょうね。
学生はその点、目聡いから、最初からMBA狙いというケースも少なくありません。
てなわけで、ここ数年のブームを背景に年間500人ほど取得してるんで、延べ人数にして5000人に達してるでしょう。
けど、アメリカの大学院でMBAを取得するのは一筋縄ではいきませんよ。
けど、この著者の不思議なところでもあり、魅力でもあるのは、この一筋縄ではいかないものでも、なんとかモノにしてしまうところでしょうね。
だって、この人、大学は文学部で伊勢物語を専攻してたってんですからね。で、MBAに目覚めたのも「たまたま外資系企業に勤めて、ここにいる限りMBAがないと出世できない」と気づいたからなんです。
だから、留学するときにはなんと32歳。
泥縄もいいところですよ。
でもね、この人の生き方を見てると、人間には不可能はないなって感じますね。
やっぱり、できる人はものすごい集中力を持ってますよ。
「もっと若けりゃ、挑戦したのに・・・」
「もう遅いよ・・・」
こんなことは考えません。
必要なら、さっさとチャレンジする。そのためには、徹底的に効率的な方法を考える。あとはまっしぐらに突き進む。もうぶれない、迷わない。とことん行く。
これっきゃないんです。
No challenge,No success ですよ。
で、内容ですけど、著者は雇われ社長として、どん底会社ばかり、次々と4社もの再建を頼まれます。
ダメな会社というのはどこも問題だらけですよ。財務も人事やガタガタでしょ。
でも、この人は同じ人間を使って、さっさと解決しちゃうんですね。そこはブラックジャックかゴルゴ13並みの腕前なんだけど、いったいどうすれば、そんなことができるのか。
このスキル、ノウハウをきわめて具体的に書いてますから、勉強になるわ。
MBAの本というのは、どれもスキル、ノウハウはたくさん書いてますよ。でも、たいていコンサルタントや大学の先生が書いたモノ。だから、ケーススタディも端から見た内容です。
でも、これは自分で問題に取り組み、自分で問題を分析し、自分で処方箋を書き、自分で実行に移して、しかも成功させてしまう。だから、現場のエピソードが満載されてます。
コンサルタントや大学教授じゃ、ここまで書けません。
ホントに経営の真髄を知ってる人じゃないとできない裏技がたくさん披露されてますから、プロのコンサルタントや大学の先生、あるいはMBA取得者はチェックしといたほうがいいと思う。
この本1冊でマーケティングから組織マネジメント、財務、コミュニケーション戦略、交渉力、危機管理にいたるまで、すべてが勉強できます。
350円高。
2 「童謡の謎」
合田道人著 祥伝社 1500円
「案外知らずに歌ってた」というヘッドコピーがありますが、童謡って面白いね。
わたし、童謡好きなんです。「日本童謡ビデオ全集」持ってるんですよ。新聞の通販で買ったんです。
ホントにいい歌が多いんですね。
でも、これらの作り方というか、見せ方は風景画の世界で、あくまでもイメージビデオを背景に歌をかぶせてるわけ。童謡ってのは、たとえば、「故郷」といえば、田舎の風景がある。そこに小学生がトンボを追いかけてる姿が出てくる。すると、「ああ、ふるさとっていいなぁ」って感じるわけ。アルファ波がばしばし出てきて、癒されるわけですよ。
でもね、ホントの童謡ってのは、もっと深いんです。
詩人は心の叫びというか、魂の表現というか、身を削って書いてるところがあるんです。
たとえば、野口雨情の「しゃぼん玉」という作品がありますね。
しゃぼん玉 飛んだ
屋根まで 飛んだ
屋根まで 飛んで
こわれて 消えた
しゃぼん玉 消えた
飛ばずに 消えた
生まれて すぐに
こわれて 消えた
風 風 吹くな
しゃぼん玉 飛ばそ
人は喜怒哀楽の生き物ですからね、悲しいとき、淋しいとき、嬉しいとき、その思いをなんとか表現したいと考えます。とくに悲しみ、苦しみは、だれかに伝えなければ癒されない、満たされないものだと思いますよ。
分かち合えば、喜びを倍にしてくれる。分かち合えば、悲しみを半分にしてくれる。そういう人がいるだけで、人間は幸せだと思います。
詩人は詩を書くことで、癒されたり、満たされたりするのです。
野口雨情って人は、わたし大好きなんです。だって、ものすごい懐メロファンですからね。もう、懐メロファンには外せない作詞家でもあるんですよ。
たとえば、「船頭小唄」なんてのがありますね。森繁久弥さんがよく歌ってるヤツです。
この暗い、暗い歌のおかげで、関東大震災が起きたんだ、なんて、言いがかりをつけられたほどの詩なんです。
さて、彼は優れた童謡詩人として広く知られてますけど、彼自身、わが子を1人は生後数週間で、もう1人は可愛い盛りの2歳で亡くしているんです。
だから、「しゃぼん玉 飛んだ 屋根まで 飛んだ 屋根まで 飛んで こわれて 消えた」とかね、「しゃぼん玉 消えた 飛ばずに 消えた 生まれて すぐに こわれて 消えた」っていう詩が生まれたんですね。
せっかく生まれた大切な命。何ものにも換えがたい命・・・この生きた宝物がすくすくと成長することを見ることなく、目の前から消えてしまった。その無念さを考えるとなんと言っていいかわかりませんが、詩人は詩で表現するのです。それが惜別の詩であり、挽歌であると思うのです。
「風 風 吹くな」という一節には彼の祈りが見てとれるでしょ。
参考までに、彼と同時期の詩人に鹿島鳴秋という詩人がいます。彼もわが子を亡くした思いを詩にしています。彼の場合、親子の立場を入れ替えて書いてますね。
次の詩を聞いたこと、ありませんか。
「浜千鳥」
青い月夜の 浜辺には
親を探して 鳴く鳥が
波の国から 生まれ出る
濡れた翼の 銀の色
夜鳴く鳥の 悲しさは
親を尋ねて 海こえて
月夜の国へ 消えてゆく
銀の翼の 浜千鳥
ねっ、いい詩でしょ。もの悲しい旋律にピッタシの美しい詩ですね。
こんな詩に秘められたほんとうの意味をいろいろまとめた本ですね。地元ということもあって、わたしは「赤い靴」がいちばん好きだなぁ。これも野口雨情なんですけど・・・。
赤い靴 はいてた 女の子
異人さんに 連れられて いっちゃった
横浜の 波止場から 船に乗って
異人さんに 連れられて いっちゃった
いまでは 青い目に なっちゃって
異人さんの お国に いるんだろ
赤い靴 見るたび かんがえる
異人さんに あうたび かんがえる
この赤い靴履いてた女の子の名前は、「きみ」ちゃんて言うんです。
静岡で生まれた私生児なんです。でも、母親にいい夫ができて、親子仲良く暮らせそうだったんですが、北海道に開拓団として入植する話がでてきます。これ、明治末期の話ですからね。日本自体が貧しかった頃の話ですよ。
すると、気候が厳しく、重労働の開拓団よりも、教養もあるし、しっかりした家庭のアメリカの牧師さん夫婦に預けたほうが子どもの将来にどれほどいいか、わからない。
そう考えた夫婦はこの子を渡して、北海道に行くんです。
ところが、この牧師夫婦に帰国命令が出ます。そこで、異人さんに連れられて行っちゃった・・・ということになるんですが、そうはなりませんでした。というのも、きみちゃんは結核に罹っちゃうんです。そして、麻布十番のメソジスト孤児院で亡くなります。
わずか9歳ですよ。
母親にはもちろん会えませんでした。母親もわが子が死んだことを最後まで知らなかったと思いますよ。
この事実がわかったのは、だって昭和54年のことなんだもの。
きみちゃんから見れば、義理の妹にあたる女性が新聞に「幼いときに渡米した姉をだれか知りませんか?」と投書したことがきっかけでやっとわかったんです。
悲しいね。
横浜の波止場から船に乗って・・・はいなかったんです。
いま、横浜港を前にした山下公園に「赤い靴」の像があります。可憐な少女が膝を抱えて海の向こうを見つめていますよ。毎日の散歩コースなんですけど、きみちゃんを思い出すたびに、なんだか複雑な思いですね・・・。
150円高。
3 「編集長『秘話』」
伊藤文学著 文春ネスコ 1500円
伊藤文学さんといえば、言わずと知れたホモ雑誌「薔薇族」の編集長ですね。この人、ホモだと思ってたんですが、違うんですね。
「薔薇族」創刊30年だとか。
大したもんですよ。
この人の親父さんも、短歌や詩歌などを出してた出版人なんです。けど、たまに当たったときはいいれども、売れなくなると印税をごまかしたり、出版物とその実態とではかなりギャップがあることに我慢ならなかったらしいです。
で、彼はやるなら、そんなインチキじゃない仕事をしよう。そこで、エロ雑誌を思いつくわけです。
出版は糊口を凌ぐ手段であり、これほど読者からの反響がダイレクトに伝わってくるものはない。弱小出版社が生きて行くにはこれっきゃない、というわけです。
そこで、最初は「わいだん読本」とか、「大人だけに聞かせる話」などを出してたんです。のちに直木賞をとった胡桃沢耕史さんも常連の著者でした。この人、エロ小説ばかり書いてたんだよね。
この一連の企画が当たります。
父親は社会的に高い評価の本を出しては経営的に逼迫し、伊藤さんは社会的には裏街道のような日陰の本を出すんですが、経営的はきちんとしてる。皮肉なもんですなぁ。
で、あるとき、ホモというものがあることを知り、その企画をちょっとやってみると、ものすごい反響があった。
これは釣り場としてはいいんじゃないかって直感があったわけですね。
しかも、使命感もありました。
「ボクって変態じゃないかな?」と陰々滅々と悩む読者を励ましたりしてね。
この雑誌は隠れたベストセラーになっていきます。警察からは白い目で見られますが、読者がサポートして成立します。まっ、ちょっと違うかもしれないけど、NGOみたいなものですよ。
良心的なのは、読者同士の文通欄へのきめ細かい対応です。「この人にレターを出したい」という場合、バイトや外部の人間を使って、万が一、情報が漏れたとき、読者に迷惑がかかるってんで、いまだに家族だけで行ってるんですね。
伊藤さんの奥さんは昔、宛名書きの達人と言われたことがあったらしいですけど、創刊当初は1人でやてたから、腱鞘炎になっちゃったらしいですよ。
この雑誌は日陰の存在、読者も堂々と読んでるわけではありません。わたしも電車内で読んでる人に会ったことないもの。
だから、ホモってまだまだ秘密なんだろうね。ホモをめぐる悲喜こもごものエピソードが満載されてます。結婚以来、奥さんと1度もしてなかったり、奥さんに雑誌が見つかったり、男同士の悲恋みたいな話もあるし、まっ、男女の関係とまったく同じです(当たり前か)。
新事業、ファン作りのノウハウがそこにはたくさんありますよ。読者が集えるイベントも創刊以来、何度も開催してますしね。
この雑誌こそ、顧客満足の極みのようなものです。見事です。脱帽します。
150円高。