2002年02月04日「ビジネスの極意はインドの露天商に学べ!」「自分を活かせ!」「アッと驚くエキストラのウラオモテ」
1 「ビジネスの極意はインドの露天商に学べ!」
ラム・チャラン著 角川書店 1200円
経営の極意とは商売をやった後にきちんと現金が残っていればいいんです。
これが基本中の基本。だから、露天商に学べというわけですよ。
ただし、本書はきちんとしたマネジメント書でして、露天商でうまく成功するノウハウは書いてありません。経営に重要な数字の読み方が書かれてるんですネ。
ビジネスの基本として、著者は6つのポイントをあげています。
現金収支(キャッシュフロー)、利幅(売上高利益率)、回転率、資産利益率、成長、顧客・・・この6つです。
露天商は売り場に商品を並べます。見栄えのする果物をいちばん前に出す。競争相手の動きにも注意を怠らない。
売れ行きが悪ければ、値段を下げたり(顧客にとっての価値増大)、並べ方を変えたり、呼び声をもっと大きくする(広告)。あるいは、品揃えを変える。
一日の仕事が終わっていちばん重要なことは、現金が残っているかどうかだ。残っていれば、翌日の仕入れができる。なければ、仕入れができない。だから、手持ちの現金がいちばん気になるのである。今後、手持ちの現金を増やすにはどうしたらいいいか。それを真剣に考える。これが資金繰りである。
資金繰りが重要なことは企業もなんら変わらない。
以前、京セラの稲盛さんから聞いたことがあるが、彼は経理の責任者から会計学を何度聞いてガテンが行かなかったという。
どこが理解不能かというと、「在庫が増えれば利益が増える」というポイントなのだ。
これは中小企業診断士の勉強をしたり、経理の勉強をすると、必ず出てくる問題だ。さしかに経理上は利益にカウントされてしまうのだ。
しかし、その利益とは現金ではない。稲盛さんが愕然としたのはこの点だったんですね。
「利益というなら、その現金を見せてくれ」
「いえ、これは経理上の数字で、現物はありません」
「ならば、利益ではないじゃないか」
「・・・」
「そうだろうが」
「・・・」
「わが社では利益とは認めない」
「・・・」
そこで、京セラの会計システムは一般常識とはちょっと違うんです。ホントに現金があるかどうか。これを重大視してるんですね。
ダメな企業のパターンは、黒字だ、黒字だと喜んでいると、気づいたら現金がなかったという黒字倒産ですね。これは少なくありません。
仕入れに回してる資金、支払い、それと未回収の現金。このタイムラグが資金ショートを引きおこしてしまうのです。
資金がショートすれば、どんなに立派な企業も倒産します。
たとえば、債券の償還期間がありますが、これが決済できなくて倒産するハメになった企業は少なくありませんよ。企業にとって株式暴落よりも怖いのは、債券償還に失敗することですよ。
180円高。
2 「自分を活かせ!」
南部靖之著 講談社 1456円
最近、半年前の経済誌と5年以上前の経営者の本を読むようにしてるんです。おもしろいですよぅ、時代が動いてることを肌で感じることができますよ。
ところで、著者はパソナ・グループの代表。もう、いまは昔のベンチャー起業家ですね。
パソナも手を広げすぎた風呂敷をバブル崩壊後に急速に畳みましたが、新規事業というのはイケイケドンドンでないと、まっ、てきませんわなぁ。
この人のスタンスは「迷ったらやる」ですからね。幸之助さんは「迷ったら絶対にやりません」でしたよ。だから、どうしても決断が遅れます。でも、かまわない。自分が納得できるかどうか、そこだけがポイントなんですね。
南部さんは直観で、「これはいけるぞ」と踏んだらゴーだったんでしょう。
稲盛和夫さんから、こんなことをいわれます。
「自分で事業をしていると、人からいろんな商売の話をもちかけられます。しかし、これは儲かりまっせ、利益が出まっせともちかけられてはじめた事業は、長期的にみるとほぼ全滅してるんですね。では、どんな事業が成功してるかというと、これはやるべきだ、やらなきゃいけないという使命感、正義感をもって取り組んだものなんです」
たしかにそうです。たとえ、新事業であっても、タボハゼのように広げたビジネスはうまくいきませんよ。
ところで、パソナは人材派遣業の最大手ですが、いったいどうして生まれたのか。
「就職活動に出遅れて、どこも断られた。みんな忙しそうにしてて、まともに対応すらしてくれない。そんなことが続いているとき、ある会社で『そんなに忙しいなら、ボク1人くらい雇ってくれてもいいじゃないですか』」というようなことをつい言ってしまった。すると、人事の人から窘められた。
『君ね、社員を1人採用するということは億単位のおカネがいるということなんだよ。忙しいからといって、そのたびに人を採用してたら会社は潰れてしまうんだ』
あぁ、そういうものかと思ったけれども、『それなら、忙しいときだけ必要な人材を雇ったらいいじゃないですか?』というと、『それができれば、苦労はないよ』と答えた。そのとき、なにかが閃いて、何社かまわって、そのたびに同じことを聞いた。すると、どこも回答は同じだった」
就職活動しながら、マーケットリサーチをしてたわけです。
彼は大学時代ずっと千里ニュータウンで仲間と数人で塾をやっていました。塾の子どもたちは、いわゆるホワイトカラーで、お母さんたちの学歴も高い。子どもたちを通じて話を聞いたりする機会があると、結婚前には多くが会社勤めをしてる。専門技術を身につけている人も少なくない。
かといって、子どもが手を離れて上の学校に行く頃になっても、就職先はない。「スーパーにパートで」という気にもならない。
採用する側と採用される側、採用したい側と採用されたい側でのミスマッチがあるのではないか。
ここにビジネスチャンスがあるのではないか、と閃いた。
学生起業家だから、なにも知らない。名刺が必要だということも、会社に営業に行って、はじめて知った。無知をカバーして有り余るだけのパワーがあった。
ニュービジネス6箇条ってのを編み出してます。
1遊び心を大切にすること
2ミスを怖がらないこと
3答えは1つだけ、という考えを捨てること
4ルールに従って考える習慣を捨てること
5現実的ではない、という批判を怖がらないこと
6数学的なはっきりした答えを期待せず、あいまいなものを大切にすること
150円高。
3 「アッと驚くエキストラのウラオモテ」
油つぼ・リンカーン著 成美堂出版 467円
エキストラとは、テレビや映画で通行人や喫茶店内でのお客や、死体の役をしたりする人のことですね。
ほとんど趣味みたいなものだと思っていたのですが(たしかにこれだけでは食べられないので趣味道楽でしょうな)、このエキストラに命を賭けている人がいたんですねぇ。勉強になりました。
エキストラ用語には変なモノが多く、たとえば「バラス」。これ、わかりますか?
「出番が終わり、撮影現場から帰されること」なんですね。「ハイ、以上でエキストラさんはバラシになります」ってな具合です。
ところで、「士農工商・代理店」という言葉が旅行業界や広告業界にありますが、実はこの下に位置するのがエキストラなんですね。
エキストラのギャラですが、よく吉本のギャグに「ギャラより高い交通費」というのがありますが、相場は五時間以内の拘束であれば四千円だそうです。
ということは、時給八百円。ほとんどマクドナルドですね。
わたしも先日、テレビ朝日(衛星)「ハイビジョン・トーク(40分番組出突っ張り)」、それとこの2月2日(土)にテレビ東京「大調査 なるほど日本人」に出演したのですが、どちらも文化人価格でホントに交通費のほうが高かったです。やっぱりホントだったんですねぇ。
でも、実際はもっと悲惨だそうです。というのも、これ、収録場所までの時間が入ってません。
著者は二時間ほどかけてやっとたどり着いたことも少なくないそうです。
で、もちろん残業代などつきません。せいぜい、弁当が振る舞われるだけです。
ですから、この弁当を楽しみにしてるエキストラは少なくないそうですよ。
そりゃあ、こんなに低賃金だと食べるものには不自由しますよね。コント赤信号の事務所の石井社長みたいに、余った弁当たくさん抱えて持って帰りたくもなりますよ。
でもね、テレビ局も経費節約が行き渡り、弁当を出さないところも少なくありません。これはエキストラにとって死活問題ですね。日本テレビは三冠王ですから、弁当はエキストラにも差別なくきちんとしたものか出るそうです。
ということは、中にはエキストラには安い弁当、俳優にはいい弁当ってなことがあるんでしょうな。
さて、エキストラというのは、勝手にテレビ局に出かけていって「やらせて下さい」ってもんじゃありません。エキストラでも役は役。だから、芸能プロダクションとかに登録しておくそうです。
すると、向こうから「こんなのあるんだけど、出てくんない?」と電話が入るわけです。もちろん中間搾取されますから、手取りはドンドン減っていきます。しかも、この世界もいまや価格破壊、デフレが行き渡ってますから、安い値段でこき使われるわけです。
テレビ局の放送、たとえば、深夜枠は予算がありませんから、エキストラをバンバン使えません。となると、エキストラも1人何役もしなくちゃなりません。
でね、よーく見てると、場面が変わっても同じ人間が何度も繰り返し出てくるんですよ。しかも同じ服装で。こうなると、いかにいい加減に作っているかがわかりますね。
こりゃ、そうとう制作費を切りつめてのなってことがわかります。
けど、ブーブー言ってるわりには、この人もよくあちこちに出ますよね。
エキストラをまっとうするために、バイトも掛け持ちをしてるくらいなんですから、たいしたもんですよ。
これだけ儲からない仕事ですから、一駅、二駅歩くなんてことは日常茶飯。中には、ほとんど埼玉県の葛飾からテクテク新宿でもお台場でも徒歩でやってくる30代の男性がいるそうです。
で、この人は終わると、またテクテクと歩いて帰るそうです。
身体にいいだろうなぁ。いま、わたし、脂肪肝を減らすためにウォーキングで10キロ減量を厳命されてるんですね。羨ましいなぁ。
かと思うと、食品添加物一切ダメ人間もいるそうで、「こんなの食べたら死ぬ」とロケ弁は一切食べず、飲み物も市販のものは一切飲まないそうです。
こんなに儲からないのに、どうしてエキストラなんてやってるんでしょうね。
かなり、変わり者なんでしょうか。
たとえば、10以上も資格を持ってるのに、まともな人間関係を築けないためにエキストラで糊口を凌いでいる人もいます。著者も2年以上、彼とは口をきいてないそうです。
あるとき、自分のほうが著者より2歳年上であることが判明。
すると、「これまで、さん付けをしないで話してきたとは何事か!」とキレちゃったそうです。
最後に著者が長いエキストラ人生の中で、感動した話があります。
それは刑事ドラマでの一こまで、居酒屋のシーンでした。
ADから「君、ビールを片手に、1人でお酒を飲んでいて」と指示されたんです。当時、まだエキストラ歴の浅い著者にはこれがうまくできない。
すると、このADは「まったくヘタクソな演技だなぁ。もっとうまくできねぇのか。こうだよ、こう!」と怒りだしたんですね。その瞬間、もう1人がものすごい剣幕で声を張り上げたんです。
「なにやってんだぁ! おまえは!」
てっきり、著者は自分が怒られたモノだとばかり思っていたら、これが違うの。
「素人のエキストラに向かって、その口の聞き方はなんだ! 注文つけるんじゃねぇ! もし演技つけるんなら、役者呼んでこい。役者を! ふざけるんじゃねぇぞ」
藤田まことさんでした。中村主水、なかなかやるなぁ。
150円高。