2002年01月28日「失われた売り上げを探せ!」「ホスト王のその気にさせる心理戦術」「歌った、踊った、喋った、泣いた、笑われた。」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「失われた売り上げを探せ!」
 小阪裕司著 フォレスト出版 1500円

 著者はオラクルひと・しくみ研究所という会社を経営してる人です。おそらく、店舗経営のコンサルタントの方でしょう。

 「お待たせしました。やっと入荷しました」
 ワインのPOPにこう記しただけで、いきなりドーンと売上が増えた店があります。別に売れ筋ワインを置いたわけではありません。
 コピー一発です。

 思いがけないサービスに人は感動します。
 たとえば、「来場の皆様に風船を差し上げます」ってことは、どこのデパートでもよく見られます。集客ノウハウの1つですね。
 さて、このとき、お客が喜ぶかというと、それほど喜びません。その理由は、「来てあげた」という気持ちがあるからです。
 もし、風船プレゼントなど知らせずに、突然、プレゼントされたら、どうでしょうか?
 「あら、いいの? ありがとう。良かったね。○○ちゃん」というように感動するんですね。
 感動すれば、そこに感謝が生まれます。
 「えっ、いいの?」
 「こんな店がこんなことするの?」
 こういうドッキリが効果的なんです。

 そもそもプレゼント攻撃をするのは、なにか上げないと買ってもらえないという強迫観念からですね。だから、お客の方はさっぱり感動しないんです。
 ただし、この場合、肝心の集客効果がどれだけあるかはまた疑問ですけどね。
 いずれにしても、「思いがけないこと」を演出するにはどうするか。それを考える必要だけはありそうです。

 その点、ニーズ対応ビジネスは感動を生みません。ニーズを裏切る提案をして、はじめてお客は感動するんです。
 ニーズを満たすことだけでは、お客は増えません。お客を増やすには、彼らのウォンツを引き出すことが重要なんですね。いつだって、ハードはどうでもいいんです。ハードによって切り開かれたソフトウエアに価値があるんです。
 たとえば、幸福を呼ぶブレスレットが売れてます。実は、これ、恋人ができるブレスレットと同じモノなんですね。でも、買う人にとってはどうでもいいことなんです。
 本人がそれを買って、ワクワクドキドキしてればそれでいいわけですよ。

 あるとき、著者は眼鏡を買いました。ところが、元もと、眼鏡が欲しくて、店に入ったわけではなかったんですね。
 眼鏡が壊れたんで、直してもらおうと思ったわけ。
 普段、著者が行くような店とはテイストが違っていたらしく、「ここで買ったんじゃないけど、直せますか?」と聞いたらしい。今風の洒落た眼鏡がたくさんディスプレイされてあるんです。
 直してもらってるうちに、ふと、気がつくと、若い女性店員の熱い眼差しに気づきます。
 「あのぅ、すいませんけど、この眼鏡、かけて頂けませんか?」
 この奇妙な申し出に一瞬、たじろいだそうです。でも、別に売り込みっぽくないので、かけてみたそうです。その眼鏡というのが、いままで掛けたこともなく、もちろん買おうと思ったこともない四角い、かなり変わったデザインのフレームだったんですね。
 「生まれてはじめて掛けた。こういうタイプのモノは似合わない」と手に取ることすらなかったそうです。
 ところが、この店員がこう言うんです。
 「この眼鏡、なかなか似合う人がいないんです。でも、お客さんがいらっしゃったとき、もしかしたら、この方には? って思ったんです。やっぱり似合いますね。お客さんのような方を待ってたんです」
 そう言われて、思わず鏡をのぞき込んだ。
 「えーやんか」
 買ったそうです。

 こういう話題が満載の本。
 150円高。


2 「ホスト王のその気にさせる心理戦術」
 零士著 青春出版社 1100円

 この前、紹介したのが「ホストの世界」。そして、今回はこの本。
 別にホストになりたくて、研究しているわけではありません(ホントはなりたいんだけど)。
 話術1つ、コミュニケーション能力1つで、ガンガン生き抜いていく人間の秘密というか、秘訣というか、原理原則、鉄則みたいものを勉強したいんですね。

 で、この零士というのは松本零士さんではなくて、著者の源氏名ですね。この人、どっかのテレビ番組でも見たことありますよ。

 ホストという仕事を一言でいえば、「女性からの人気投票でメシを食う」ってことなんですね。だから、政治家や芸能人と同じですよ。
 人気がそのまま成績に反映されます。
 人気を左右する「清き一票」は女性が持ってるわけ。そして、その女性にもいろいろいるわけですね。美人もいれば、そうじゃない人もいる。でも、投票してくれたら、プロとして尽くすんです。だって、プロだものね。
 自分の好き嫌いで相手との態度を変えるのはアマチュアですよ。プロなら、プロらしく、サービスする。これが鉄則です。
 投票というより、投資家と思ってかかったほうがいいね。
 彼の店でもいい女しか相手にしないホストがいたらしい。で、彼はガンガン怒鳴るわけですよ。
 「勘違いしてるんじゃねぇ。女性を舐めるな」ってね。
 
 お客は店を出て、2、3歩歩いたら、「あの子、顔はいいけど、バカね。もう行かない」ってなりますから、女性から一票もらうってことは至難の業なんです。
 だから、チームワークで攻めるらしいですね。
 彼には言えないことでも、ほかのホストに話してることもある。それを聞き出して、自分の仕事にいかすわけです。まるで、企業と一緒でしょ。ホストだろうと、ホステスだろうと、ソープ嬢だろうと、ポン引きだろうと、総理大臣だろうと、なんだろうと、仕事の方法論は同じだと思うんです。
 わたしたちは偏見なく、勉強できるものを勉強すればいいわけです。

 「この世界ではタブーって言われてたけど、オレはお客様の年齢を聞いたよ。たいていの女性は『いくつに見える?』って逆に聞いてくる」
 で、「25よ」と答えれば、「若く見えるよね」とフォローするんです。このとき、じっと目を見つめたままです。年齢を当てようってんですから、見つめていてもおかしくない。こういうシチュエーション作りも考えてるわけですよ。
 このとき、一瞬だけど、表情や仕草にスキが見えるそうです。

 彼はホストしても店でトップになった。いまや、新宿、六本木で自分の店を経営するまでになってます。
 どこがここまで彼を成長させたかというと、やっぱり考える力だと思うんです。
 「料理するの?」
 「わたし、料理はしない主義なの」
 「ふーん」
 二の句が継げないレスポンスにも、「どうして料理しないのかな」「なんか理由があるのかな」と考えるわけですよ。すると、自然と「あなたは外で食事をするのが好きなんだ。フットワークが軽いんだ」とさりげなく言える。
 これが効くんだそうです(今度、使ってみよう)。

 ホストで成功する人間の共通点は「タフでマメ」。これにつきます。
 でも、この2つはどこの世界でも必要ですし、とくに営業マンはもろそうですよね。
 「今日は初対面だから挨拶ぐらいにして・・・なんて考えてたらダメ。甘いよ、もう勝負ははじまってるんだから」だって。ホント、営業マンの鏡です。

 面白いのは、要領のいい人間はどこの世界にもいます。ホストにもいます。
 指示を出しても、「わかってます」「わかりました」とすぐに言える。器用に何でもこなしてしまう。ウサギとカメで言えば、完全にウサギ。
 でも、こういう足の速いヤツが転ぶと大事故になるわけ。カメは転んでもたいした事故には発展しないモノネ。で、ホストにもウサギタイプがいて、いきなりスタートダッシュ。でも、半年後には見事に沈んでるそうですよ。
 そういうウサギには、「焦るな」といって手綱を締める必要があります。カメがいいわけじゃありません。
 ウサギが本気になれば、ものすごい活躍をするからです。カメとは比較にならないんです。だから、ちゃんと正しく育ててやるわけですよ。

 150円高。


3 「歌った、踊った、喋った、泣いた、笑われた。」
 松倉久幸著 1600円 ゴマブックス

 著者は浅草演芸ホール会長です。これはストリップのフランス座、東洋劇場、浅草ロック座などが集約されてできた小屋ですね。だから、ストリップの合間に活躍した渥美清、由利徹、三波伸介、欽ちゃん、たけしなどを子どもの頃から知ってるんです。
 それに深見千三郎。ビートたけしさんの師匠ですね。空前絶後の面白さだったらしいですよ。

 場所は浅草六区にあります。六区というのは六区というぐらいですから、一区も二区もあったんです。
 明治維新のあと、東京府(古いねぇ)が区割りをしたんですね。
 その時、浅草寺の境内が広いんで、一区から六区まで分けた。ですから、いまだに六区界隈は浅草寺が地主です。
 で、四区にたくさんあった見せ物小屋を全部、六区に移転させます。すると、そこでいかがわしいのから不思議なのから、妙ちきりんなものまで集まってきた。すると、自然に化学変化を起こします。
 それが浅草のエネルギーに変換するんです。
 ストリップ小屋は最盛期で10ぐらいあったらしいですよ。

 もちろん、男はストリップに裸を見に来る。ところが、踊りは一時間半、そしてコントとか芝居で一時間くらい引っ張るわけですよ。
 すると、「引っ込め」「さっさと踊り子を出せ」ってことになる。
 ここで負けたら、芸人の面汚しです。で、裸を忘れさせるほどの芸を見せるわけですよ。
 あの渥美清など、彼の笑いを楽しみに通ってくる客が引きも切らなかったとか。
 もちろん、深見千三郎は別格です。空前絶後の芸人ですね。でも、彼は最後までテレビに進出しませんでした。
 「浅草はオレが守る」
 そう言って、欽ちゃんやたけしを出すわけです。

 ストリップ小屋では芸人と踊り子は一日中、365日一緒に仕事をしています。
 風呂だって、実質的に混浴ですよ。となると、恋人同士になる確率も高いんです。職場結婚みたいなもんですね。
 でも、圧倒的に男はヒモ状態になります。
 なぜなら踊り子のほうが圧倒的に稼ぎがいいからですよ。比較になりません。
 しかも、踊り子はたいてい貧乏してきた苦労人ですから、食べられない芸人を見てられない。
 それで世話になった芸人さんはたくさんいるわけです。
 渥美清が結核で死にそうになって、高価なストレプトマイシンで助かったのも一緒に暮らしていた踊り子のおかげです。東八郎もそうですね。
 でも、彼らは自分が売れてくると捨てちゃうんです。かといって、この踊り子たちはなにも言わないんですね。
 欽ちゃんと二郎さんなど、踊り子さんとそのまま結婚しましたよね。三波伸介さんもそうでした。

 コメディアンが一挙に全国区の人気を博すようになったのは、テレビと映画のおかげなんですね。テレビは番組を通じて芸人たちを宣伝する媒体として、そして映画界は五社協定で俳優をテレビに出させなかった。そこで、ますます芸人たちの出番が増えた。こういうわけです。

 芸人、とくにコメディアンで重要な資質は、反射神経なんですね。自分がいま、なにを求められているのか、お客の反応に瞬時に反応する。いわゆる。アドリブ力が重要なんです。
 芝居の台本をきちんと記憶して演じるだけでは、通用しないわけですよ。
 お客から、「ヘタクソ」「引っ込め」なんて言われた日には、ビビッちゃうでしょ。そのときに、どう切り返せるか。それが芸人の真骨頂なんですね。
 渥美清はヤジなど言わせませんでした。それはお客が引き込まれてしまうからですね。ビートたけしは師匠の深見千三郎譲りで、「ちゃんと聞け」とか「馬鹿野郎」とお客にガツンとやってしまう。それがまた受ける。こういう微妙な反射神経を持ってました。これって難しい技術で、一秒でも外すとケンカになったり、場が白けてしまうんです。
 その点は、板に付くまで経験を積まないと無理でしょうね。

 深見千三郎は天才でした。
 著者の親父さんは「オペラ座の舞台を踏んでたなら、芸の力は問題ないだろう」と思って採用したんですが、問題ないというレベルではなく、飛んでもない天才だったんです。
 度肝を抜かれるという言葉がありますが、まさにそれでした。
 わたしはこの本ではじめて知ったんですが、この人の実姉は美ち奴という歌手だったんですね。この歌手のレコード、わたし持ってるんですよ。というと、飛んでもない年齢かと思われるかもしれませんが、わたし小学生の時から懐メロフリークなんです。ですから、当時、持っていた昭和歌謡大全集の中にあったんです。
 空にゃ 今日もアドバルーン さぞかし 会社でいまごろは・・・
 てな歌詞ですよ。
 で、深見千三郎は実姉をしたって芸能界に出ようとするわけです。当時、人気スターだった片岡千恵蔵さん。その弟子になります。だから、深見千三郎の千の字は、彼からもらったものですね。

 深見千三郎は浅草芸人、みんなの師匠でした。欽ちゃんもそうです。たけしは深見も自他ともに認める「最後の弟子」でしたよ。
 ツービートで売り出した頃、「深見の師匠にどんどん似てきたね」と、欽ちゃんが言ってましたね。たけしの毒ガスギャグはまさしく深見千三郎譲りのモノですよ。

 深見千三郎は愛妻に死なれ、ベロベロに酔っぱらって火の不始末で焼死します。
 その知らせをたけしは「おれたち ひょうきん族」のリハーサル時に聞きます。聞いた瞬間、壁のところにツツーと行って、壁に向かってタップをずっと踏んでたそうです。

 なぜか。
 芸人になりたくて、しかも深見千三郎の芸を勉強しようと、フランス座のエレベーター係をしてたんです。
 「師匠 芸人になりたいんです」
 「なにぃ、大学中退までして、なるもんじゃねぇよ」
 まるで相手にしません。でも、たけしは深見千三郎の舞台がはじまると、後ろでじっと見つめて勉強するんです。そして、あるとき、エレベーターの中で直訴するんですね。
 すると、深見千三郎はいきなり2人きりのエレベーターの中でタップを踏み出します。
 「いいか、これを1週間以内に覚えて見ろ」
 必死にマスターするんですよ、それから。深見千三郎は次から次へとタップを教えてくれます。3カ月も過ぎる頃になると、「もう、おまえにゃ教えることはなくなったよ」、そう言って弟子にするんです。

 深見千三郎の通夜にやってきた彼は、遺影に向かったまま、肩を奮わせていたそうです。

 350円高。