2001年12月17日「6番アイアンの教え」「アスリートたちのナイショ話」「ピーコ伝」
1 「6番アイアンの教え」
坂田信弘著 NHK出版 680円
ご存じ、NHKのゴルフレッスンの先生ですね。
内容はタイトルにあるようなゴルフの基礎となる6番アイアンの打ち方云々てことよりも、ゴルフを通じた人間学、哲学が坂田節で歌い上げられた人生の本ですよ。
この人、日本のゴルファーには珍しいインテリで京大中退なんです。だから、解説もうまいし、指導もうまい。ボキャブラリーが豊富だもんね。青木功さんも頭脳明晰で、わたし、ビデオ集も全巻持ってるんだけど、やっぱり坂田さんがピカイチだね。
で、坂田プロと言えば、テレビで何回も特集されてるけど、「坂田塾」の存在でしょ。
これ全国組織で、子どもにゴルフを教えるのよ。だけど、たんにゴルフの技術を教えるだけじゃなくて、礼儀とか根性とか、いまの学校教育、家庭教育に欠けてる部分をドンと教えるわけね。
規則は、ウソをつかない。隠し事をしない。スコア誤記をしない。あいさつ。パンツと靴下は自分で洗う。礼状を書け。英語、国語はクラスで三番以内じゃないと退塾させるとか、ゴルフバカは作りたくないわけです。
ゴルフ塾ってのは、お金持ちの子弟しか入れないと思ってたら、違うんですね。
優先順位のいちばんは、親御さんのいない子ども。父親、母親のどちらかがいない子ども。経済的にゴルフと親しむことがむずかしい子どもなんです。
スポンサーはいません。あえて作らない。すべて、彼のポケットマネーで運営してます。ただし、コーチの手伝いやゴルフ場、飛行機などはすべてボランティア。宣伝もしない。
この選考会がおもしろい。テレビでもやってましたけど、一列に並ばせて一斉にカカトを浮かせてつま先立ちをさせる。ジッと待つ。子どもは苦しくなってくる。身体が揺れて震え出す。
このとき、目が泳ぐ子どもはたいてい依存度が高いんですね。
この塾では世界のトッププロを養成するつもり。すると、ギリギリのギリギリで勝てる人間というのは、やっぱり技術を超えたところでの勝負になるわけですね。半端なレベルは技術だけで勝ち負けが決まるんです。
忍耐だけは言葉だけでは教えられませんものね。
「トップに厚い層が必要。底辺に厚い層は必要なし」というのも、世界を目指す、頂点を目指す競技にはトップ層が厚くなければダメ。だから塾をオープンしたんですね。
もちろん、無料です。
「底辺層の厚みが高い頂を作る」という話がありますが、これは世界を目指すようなレベルにて当てはまりません。底辺はどんなに広くても底辺のままです。しかし、高い頂ができれば、底辺はあっという間に広がります。
静止態能力と動態能力ってのがありますね。イチローは動態視力がものすごいことで有名でしょ。
静止態能力ってのは、ゴルフの動きなんですね。ボールは止まってるし、動きはフォームで引っぱたきますものね。野球で言えばピッチャーがそうです。静止態能力にはフォームを固めることが重要になります。そのためか、日本舞踊の師匠たちはハンデ1〜2なんて腕前の人がたくさんいます。JCの連中の中にもハンデ一ケタってのがかなりいますが、これは仕事しないでゴルフばかりやってるからですね。師匠たちのとは話が違います。
「初心者のときがいちばん大事。ゴルファーとしての一生の基本が作られます」
最初は誉めて誉めて誉めて育てます。苦手意識が生まれる前に、得意意識を芽生えさせるためですね。「ヘタの横好き」よりも「好きこそものの上手なれ」を、わたしも信じてます。
さて、なぜ6番アイアンか。
7番では打球が上がりすぎ、5番は上がらない。弾道から見て、スイング練習には6番がベスト。すべてのクラブのなかでシャフト、ロフトを考えたとき、ど真ん中が6番アイアン。世界のゴルフコースにあるパー3ホールの平均距離が164ヤード。見事に6番アイアンの距離ですよ。だから、基礎の基礎なんですね。
ところで、基礎ってのはどういうことかというと、「合う」「合わない」ではなく、これさえやれば、だれでも身につけられるというもの、なんです。
基本ができれば、誉めてやる。基本もできないのに誉めたら、これは傲慢になるだけです。自惚れ、勘違い・・・などは、すべて基本ができない人間を甘やかすから生まれるわけですね。
「20歳過ぎまで、男子スポーツマンには大きな期待を抱かないこと」
これは身体の急成長中に何をやっても、身につくはずがありません。だから、この塾でも中高生は放任してるそうです。せっかくフォームを仕込んでも筋肉、身長、体重が大幅に変化すると、もう一度、インプッしなおさねばならないからです。
350円高。
2 「アスリートたちのナイショ話」
ジャンクSPORTS篇 KKベストセラーズ 1100円
これ、いずれもフジテレビの番組の単行本化です。
ダウンタウンのハマちゃんをメインキャスターに、野球選手やK−1選手(角田とか武蔵とか)、騎手、水泳選手などをゲストにしてその裏話をごちゃごちゃ暴露するものです。
なにが面白いかというと、地味なスポーツってあるでしょ。
たとえば、ライフセービングとかフィッシングとか、フリークライミングとかね。ビーチバレーもそうかな。マイナーなスポーツだから、あまり露出度がない。つまり、情報がないわけです。
でも、この本を読んでると「へぇ、そんなスポーツなんだぁ」と新しい発見が多いんです。
時速300キロの世界を語るのは片山右京さん。F1レーサーですよ。
彼らレーサーたちが精神力を鍛えるためにどんな練習をしたかというと、高速道路で前を走るトラックにピタッと車をつける。
そのつけ方もハンパじゃありません。バンパーをコンコンと突く。そしてピタッと接触したまま、30分も走るんだそうです。いつトラックがブレーキをかけるかわからない。そのギリギリの恐怖感と戦うトレーニングなんですね。
「昔の話でいまはこんなこと、やる人間はいません」と言ってましたが、きっとまだやってると思うな。
競馬騎手の話ではこんなのがありました。
馬に乗って障害を飛ぶ連勝をする。このとき、バランス感覚を養うために、手綱をもたず、後ろ手に組んだまま飛ぶんです。すると馬は賢いから、「いまのオレは支配されてないぞ」と勘でわかるんですね。
で、どうするか?
障害の一歩手前でいきなり停まるんだそうです。ものすごいスピードで走ってきて、いきなり停まる。慣性の法則ってのがありましたね。当然、騎手だけがポーンと空中を舞うわけです。で、障害の上にたいてい落ちるそうです。
これは痛い。その騎手も尾てい骨を折ったそうです。みんな、こうやって折るらしいですね。でも、やる。何回もやる。手綱をつかまなくても、馬をコントロールできるようになるまで徹底的に繰り返す。ここまでやってはじめて、人馬一体になれるんでしょうな。
ヨットって、船に使われてる部品はすべてどこかの部品に応用できるようにできてるんですね。たとえば船が壊れたとき、ベッドにも舵にもなるようにできるようにプログラミングされてるんです。こっちのボルトが外れたら、あっちのをつける。便利ですな。
ヨットってスポーツは寄港したら終わりですもんね。だから、船中で修理しなければならないわけ。
「これが壊れたら終わり」ってときもあります。南氷洋なんて、SOS呼んでも3日くらいかかるんだって、来るのに。だから、3日前に出すそうですよ。
ちーとも知らなかった。
本音って、おもしろいね。こりぁ、スポーツ番組ではなかなか聞けないし、言わない情報ばかり満載の本。
150円。
3 「ピーコ伝」
杉浦克昭著 日経BP社 1300円
著者は「おすぎとピーコ」の片割れ。といっても、どっちがどっちだかわかんないんだよね、わたしも。
えぇと、ピーコはファッション・コメンテーターで、おすぎは映画評論家。2人一緒に出るともうわかんない。これって、老化現象の一種なんでしょうかね。
これ、自伝なんだけどインタビューに答える形でまとめてんです。インタビュアーは糸井重里さん。これもピーコの親友。
この人、横浜の高校でトップクラスだったんですね。で、大学進学を考えてたら、父親が入院。当時(おそらく、40年前)のお金で2〜300万円はかかる手術だったらしい。
で、諦めて2人で働くんですね。
それがいくの2人のイメージを考えると笑えます。
ピーコはトヨタ自動車。宣伝部志望が却下されて、倉庫で90キロもあるコンテナを運んでたんだって。もうおもいっきガテン系だね。
で、おすぎは松下電器の子会社の松下興産。ここは幸之助さんの孫娘婿が社長をしてたところです。ということは、元もと、松下の資産管理会社だったわけ。でも、すぐに辞めちゃうの。理由は、夜学に行かせてもらえるって話だったんだって、ところが、おすぎもどういうわけか倉庫係をしてたから、夜中にも配送業務があるために通えないわけよ。いまだに怨んでるらしいよ。オカマの恨みはこわそうだなぁ。
ところで、ピーコもすぐにトヨタを辞めます。
そして、三陽商会に入るわけよ。ここで一挙にファッションと近づいたわけ。ファッションということでは、元もと、すぐ上のお姉さん。この人は3歳から脊椎カリエスで曲がったまま。で、手に職ってんでお針子の修業をさせて、ものすごくうまいわけ。
この姉との縁でものすごく運がまわってきます。
三陽商会には19歳から4年間勤務するわけ。
営業マンしてたんだけど、「洋服の勉強をきちんとしたい」ってんで、文化服装学院に通います。46人中たった1人の男でした。
そのおかげで、デザイン図を書いて型紙を作れるまでにはなった。いま、ポンと型紙だけを渡されて、それとデザイン図を見比べて、完成品がどうなるか。ダメだとすれば、どこを直せばいいかまでもわかるようになるんです。やっぱり、基礎は大事だね。
きちんとこういう勉強をしてるかどうかって、重要だね。
三陽商会の給料が2万7500円。で、アルバイトが3万円。会社も公認です。
学校を出てから正式に三陽商会に入るんだけど、すると嘱託で1日行っただけで10万円。
さすがに社員からクレームが来たそうです。会社も困った。そこで、「せめて月4回は来てください。15万払いますから」だって。
「おすぎとピーコ」って、2人で1組の漫才師みたいなものと思ってたら、最近は1人ずつ仕事してるでしょ。
あれもね、「才能のないピーコがおすぎの足を引っ張ってる。なんで、ピーコがいるのよ。おすぎだけでいいじゃない?」って各方面からいろいろ言われたみたい。それがストレスとプレッシャーになって、この2人の間でヘタをすると殺し合いの大喧嘩に発展しそうだったらしいです。
カインとアベルのケースもあるし、止める人がいたから良かったものの、考えてみれば、この人たち、腕力は男だもんね。
ところで、ピーコと言えば、左目がヨーヨーマ・・・じなくて、メラノーマっていう腫瘍で摘出しましたよね。これ、ガンなんですね。運良く、ホントに運良く、ほかへの転移が認められなくて助かります。
著名な小田原の眼科医(この先生は名医らしくて、わたしも聞いたことがあります)に診てもらったとき、「左目1個でいいんですね。なら、取ってください」と即決。それに対して、この医師は「ボクはオカマが嫌いなんだけど、あなたは認める。男の中の男だ」だって。
でもね、男だったら、こんなに即決はしませんよ。ああだ、こうだ考え込んじゃいます。女のほうが度胸が坐ってると、思うな。
これ、永六輔さんの本に書いてあったんだけど、永さんはピーコに義眼代をプレゼントしようとしたらしい。
ところが、専門家に聞くと義眼というのは一つじゃダメなんですね。朝用の義眼、夜用の義眼。夏用、冬用、それにタレントだから、カメラ用のものもあるし、トータルで10個は作らないとダメなんです。となると、100万円くらいになっちゃう。
そこで、一口一万円で義眼基金を作ったんです。
さて、ピーコは左目1個を取ったことで、新たに発見したことがあったそうです。
それは人情ですね。みんな、自分のことを心配してくれてたという発見です。
もう1つあります。それは欲だそうです。物欲です。で、見舞客に指輪とかどんどんあげちゃうんです。
元気になってカムバックしたとき、仕事が入ると、ギャラとかどうかという物差しはなく、「この仕事をすると、みんなが喜んでくれるだろうか」という気持ちしかないんです、だって。
そうかもしれません。1度死んだと思えば、あとはお釣りの人生。世のため、人のためって気持ちになるんだろうね。
250円高。