2012年09月21日「フェア・ゲーム」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 ショーン・ペンとナオミ・ワッツという2人のオスカー受賞者が共演した映画『フェア・ゲーム』(2010年公開)。

 フェア・ゲームつうのは「公平な闘い」なんて意味やないねん。「格好の標的(攻撃目標)という意味でおま。

 ナオミ・ワッツ演じるヴァレリー・プレイムの名前から「プレイム事件」として全米では知られてます。ウォーターゲート事件など吹っ飛んでしまう空前のスキャンダル=大統領の犯罪でっせ。
 ブッシュはじめ、逮捕された政府高官や委員会でのプレイムの発言など実際のシーンを効果的に映像に取り入れてましてな。なかなか高い評価を得てる作品でんねん。



 03年にあのブッシュ・ジュニアが「大量破壊兵器の保持」を理由にイラクに宣戦しましたね。終わってみたらそんなものどこにもあらへん。完全な言いがかり。石油が欲しかっただけ。

 ジョーはイラクの核兵器開発疑惑についてニジェールで調査。なんの証拠も出てこない。プレイムもCIA工作員として、イラク内外の科学者を調査、やはり核や大量破壊兵器の開発計画はなんにもない。そりゃそうや。91年にパパ・ブッシュがイラクを徹底攻撃したとき工場が破壊し尽くされて、開発しようにもできないわけ。経済破綻してたから資金もないしい。

 ホワイトハウスは知ってたのよ、そんなことは。けど、どうしても戦争したい。もうおっぱじめちゃったしい。大量破壊兵器がないと困る。でも、どこにもない。

 ま、いつもの手ですね。国民? 馬鹿な新聞とテレビを使えばどうとでもなりまっせ。

 ところが、アメリカの凄いとこは、共和党に反対する民主党びいきの記者やメディアもいるんで、情報操作を徹底できない。大本営発表メディアしかない日本とそこが違う。

 ホワイトハウスはあくまでもジョーの報告書を握りつぶします。ジョーは「ニューヨーク・タイムズ」に大統領の嘘を弾劾する文章を載せちゃう。

 ホワイトハウスを向こうにまわして全面戦争。

 ホワイトハウスはメディアを使ってジョーとプレイム夫妻を徹底攻撃。国民の関心を逸らすために法律で禁止されてるけど、プレイムがCIA工作員(公務員)という秘密情報をメディアにリーク(後にリチャード・アーミテージ国務副長官は自分がやったと告白)。

 このニュースは即刻、世界中に流れます。非難囂々。CIAの評判悪いからね。殺し屋と思われてるから。世界中で工作してた彼女の作戦はすべてご破算。

 ジョーは記者会見を開いて、ホワイトハウスの違法性を訴えます。

 03年、CIAは司法省に機密情報漏洩に関する調査を依頼します。ウォーターゲート事件でニクソンは辞しましたからね。政府も捜査を支持するしかない。

 パトリック・フィッツジェラルド特別検察官はチェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・リビーを偽証と嘘誓、司法妨害で起訴。リビーは辞任。ブッシュは巧く逃げ切った。07年、リビーは有罪、実刑判決、けどブッシュが大統領権限で執行猶予に減刑。もちろん世論の反発を招いてます。
 チェイニーについては「暗雲(cloud)」という表現を使いましてね。これが流行語になってました。

 大統領の嘘でイラクは戦争に巻き込まれ、フセインは処刑され、無辜のイラク国民は殺害され、騙されて送られた若い米兵にも犠牲者続出。
 で、ブッシュが得たものはなにか? 大量の原油を奪えたの? とんでもない。イラク原油に対するメジャーの取り分はそんなにあらへん。
 いったいなんのための戦争? ボロ儲けしたのは武器商人と、その背後にいる大統領も含めた政府高官だけでしょうな。

 日本を取り巻く領土問題。トラブルの根源はアメリカ、工作もアメリカと考えるべきでしょうな。


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