2005年01月17日「マイク一本、一千万」「人のセックスを笑うな」「ぴんぽんぱん ふたり話」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「マイク一本、一千万」
 唐澤和也著 ぴあ 1470円

 フットボールアワー、笑い飯、アンタッチャブル、中川家、ますだおかだ・・・。
 知ってます?
 漫才コンビでっせ。

 けど、中川家なんて、ハマっ子のわたしからすると、百パーセント、こりゃ家系ラーメン(美味いぞ、吉村家!)の関係者だと思ってましたし、ますだおかだなんて、東京の山手で育ち、青山あたりで幼少の頃から遊んでいたわたしからすると、てんぷら屋のますだ(青山通りにある!)の親戚かと思いましたよ。

 これ、みんな、漫才師。しかも、M1参加者なんです。

 M1てのは、K1に対抗して作った「全国漫才師一位決定戦」みたいなもの。「キャリア10年以内、所属事務所問わず」で応募してきたコンビによるガチンコお笑い合戦。
 で、一等賞は1000万円。その場で源泉を引いた分をきっちりもらえます。二位以下はなーーーーんも無し。
 トップ総取り、一人勝ちってヤツ。

 リスクはそれだけじゃありません。
 二位、三位のトラウマたるや大変なのよ。
 「一位になれなかった」というのはきついよね。二位以下はリスクだらけ。「すごい、あんだけいる中で二位だぜ」とは見ない。「一位になれなかったコンビ」と、世間は見てしまうからね。
 自惚れがないとやってけないのがこの世界の住人ですよ。それが順番をつけられる。トップで売れてるコンビはやっぱりつらい。
 みな、おれこそがいちばん!
 こう思ってるからね。

 さてさて、1906、527、205、70、9、1・・・この数字、いったいなにかわかりますか?
 このM1に参加したコンビが勝ち抜いて残っていく数です。
 すなわち、一回戦に参加したコンビ数(つまり、応募者全員ということ)、二回戦に進めたコンビ数、三回戦に勧めたコンビ数、三回戦、そして四回戦となると、9組のコンビ。
 ここまでくると全国放送されます。
 で、最後に1組だけが残る。

 第一回目M1のチャンピオンを射止めた中川家の弟が言ってます。
 「もう二度と出たくない!」
 3カ月にわたって繰り広げられる戦いですけど、緊張感は半端じゃない。だって、甲子園と同じだもの。一発勝負なわけ。
 審査員は藤本義一とかのオッサン評論家じゃありません。島田紳助、松本人志、中田カウス、島田洋七、大竹まこと、ラサール石井、それに立川談志さんですよ。バリバリの現役芸人たちが審査員なのよ。
 この人たちに判定されたら、もうぐうの音も出ないわなぁ。

 発想と技術、そして漫才への真摯な愛をもった芸人たちが審査員てわけさ。こりゃ、きついし、あがる。

 こんな審査員にしたのは、島田紳助。
 彼、むかし、漫才コンクールとかでオッサン演芸評論家たちからこきおろされたのね。
 「おまえ、発声ができてないよ」
 「漫才の技術がねぇ、基本がなってないねぇ」
 けど、若者にはバカ受けしてた。
 「けっ、おまえらになにがわかるんじゃい、ボケ!」
 こんな体験があるから、「おれみたいに審査の内容にごちゃごちゃ言うんじゃなくて、チクショウって自分に腹が立つ状態で帰らせてあげたい」
 これ、漫才師に対する愛です。
 「このM1で三年連続一回戦で落ちたら、もう才能ないと思ってやめなはれ」ってメッセージでもあるわけ。

 漫才には技術が必要です。バカ受けはしないけど、しゃべくりの技術だけでアベレージ以上の笑いをとっているコンビって多いもの。安定的にウケるってやつね。
 紳助、竜介コンビは技術で受けた漫才じゃない。これは発想よ。尖った発想ね。これが共感を覚えた。
 まったく新しい漫才してたでしょ。突然、服を脱ぎだして、グローブつけてキックボクシングはじめたりさ。
 これ、発想がトンデタのよ。で、面白かった。
 けど、こういうスーパー発想型の漫才というのは、そんなに続かないの。才能が尽きるというわけじゃありません。売れると時間がなくなる。ネタを考える時間もなくなるほど忙しい。
 才能を削りながら仕事してるっわけ。
 だから、燃え尽きてしまうんだよね。

 「もし、オール阪神巨人くらいの技術があったら、もっと続けてたと思う」
 これ、紳助さんの素直に感想。

 カウスさん、この人、よぅ知ってます。曾根崎でバーやってるからね。兄のゴルフ友だちで、わたし、何度も店行ってましたから。たけしさんもよく来てますよ。
 「M1云々という前に、勝負師としての勉強が足りてない子がおるなぁ」
 漫才には発想、技術、運、才能・・・けど、勝負師としての覚悟というか、腹のくくり方が足りない子が多い。
 なにが言いたいんでしょうかねぇ。

 「これ一本で生きていく!」
 「一生を棒に振ってもかまわない」
 こういう迫力のことでしょうな。一回一回のステージというか、板に勝負を賭けるという迫力が足りない・・・ということじゃないかいな?

 「芸人の中で大事なんは、照れながら演じるということ。照れるところに品があったり、可愛らしさがあったりするんやから」
 「才能のない子がこの世界でやっていくには、人の百倍努力することです。ほんなら、おれは天才だ、才能があるって思ってるヤツよりも味を出すことができる。この味は天才を唯一負かすことができる。味は才能に勝てる。けどね、味が出せるようになったら、土俵を間違えちゃいけないんです。味がわかってもらえる場でしか勝負したらあかんのです」
 「漫才ほどおもろい格闘技はありませんよ」

 どや、おもろいやろ! 関西人のわたしが言うんやから、ほんもんやで。
 350円高。
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2 「人のセックスを笑うな」
 山崎ナオコーラ著 河出書房新社 1050円

 笑わないって、そんなもの。
 笑ってどうすんのよ? ねぇ。
 
このタイトル、小説の内容とはまったく関係ありません。
 で、ナオコーラだと!
 こら! 人をおちょくるのもいい加減にせんかい!

 てなこと言ってますが、このテイスト、大好きです。

 19歳のオレ。美術の専門学校生。
 39歳のユリ。そこの教師。
 で、この二人が愛し合う。もちろん、ユリには旦那さんがいますよ。三人で食事もしたりね。

 見た目も39歳。髪は長くて真っ黒で、パーマをかけてはいたけれど、ほったらかしのボサボサで、化粧も口紅くらい。で、汚れたスモックを着てニコニコしてた。

 「私、君のこと好きなんだよ。知ってた?」
 「えーと・・・知ってたかも」
 「授業してても、よく見ちゃってたの。いい顔してるなって。あと、肩のラインと、肘の形が好き。指の関節も」
 「そうですか・・・節」

 変な告白・・・。

 オレはセックスが下手、人づきあいも下手、自分のことをそんな風に思う。ユリを気持ち良くさせてあげられているかどうか。いまだに自信がない。喋っていても、ユリが楽しいだろうか。飽きてないだろうか、と気にすることを止められない。
 そんなオレに、セックスをしながら、ユリが言う。
 「自分が楽しいなら、相手も楽しいと信じること。絵と同じ」

 そんなオレとユリ。でも、別れが来ます。
 才能に見切りをつけて、旦那と海外に行くというユリ。
 さてさて、オレはどうしたらいい? 男って、やっぱり引きずるからさ。
 まっ、自我の目覚めってやつかな。
 わたしゃ、この小説、なーんだ、鴎外の『舞姫』じゃん、と感じましたけど、あなたはどう?
 150円高。
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3 「ぴんぽんぱん ふたり話」
 美輪明宏・瀬戸内寂聴著 集英社 1575円

 もうたまりまへんなぁ、こういう組合わせ。
 なんか核爆発て感じ。
 このまま、イラクに送り込んでみたいって感じ。

 瀬戸内さんなんて、子どもを捨てて男に走った女でしょ。で、あげくの果てに仏門に入っちゃった。
 けど、まだまだ色は忘れない。女の業を消さない。そのまま正直に生きてる。まっ、周囲は迷惑でしょうけど、ある意味、人間らしい。
 わたし、こういう人、嫌いじゃありません。
 で、美輪さんはあぁいう感じだし。もう、何、言ってもいいっていう存在ね。

 美輪さんて霊能者だったんですね。
 「あなた、読み書き百般ができる才色兼備の白拍子だったのね。それが気に入られた御所に側室としてあがったのよ」
 これ、美輪さんが瀬戸内さんの前世を見たの。

 霊界というのは不思議なところで、霊はよく知ってますよ。運命の赤い糸じゃないけど、なにからなにまで全部。こういうふうに引っ張れば、こっちがこうなるとピタッと合うようにできている。
 で、あとで気づく。こういうわけ。
 
 エネルギーは吸い取るとか、吸い取られるとかってわけじゃないの。
 これ、回ってるの。
 循環してるのね。
 
 「この人は好きだからなんとしか助けてあげたい。で、懸命に霊視しようとするでしょう。ところが、なにも見えない。よっぽど運のいい人なのかと思ったら、そうじゃない。見てやる必要がない。まだ修行が足りない。もっと苦労させめ、ということなんですね」

 そうなんです。この世は魂が肉体を借りて修行する場所。
 だから、わたしは苦労の連続。だって、まだまだ修行が足りないから。おかげで、苦労を苦労と思わなくなりました。

 これはなんのメッセージ?
 まだ、準備してないよぉ!
 けど、待ってくれないの。
 よく気づいたね、隠してたのに。
 運の神様というのは、その人のいちばん弱い部分をピンポイントで突いてきますから、ごまかせませんよね。

 250円高。
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