2004年12月20日「ハングリー」「ジブリマジック」「三三七拍子」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「ハングリー」
 中島武著 講談社 1700円

 元、拓大応援団長。卒業後はOBのコネで東急エアカーゴに入社するものの、半年もたなかった。
 その後は金融の世界、不動産業界と儲かるけれどもいかがわしい仕事ばかり・・・ロールスロイスを乗り回し・・・バブルが弾けて破綻!
 日銭を稼ぐために飛び込んだのが飲食店ビジネス。しかも、中華料理。
 1990年12月、徒手空拳。

 いま、直営店201、物販店24、FC41店、計266店を統括。
 従業員1118人、年商203億円・・・「際コーポレーション」のボス。

 何事にも直感が先走ってしまい、あとに続く人は大変。
 1990年、最初に福生(基地のあるところ)でオープンした中華店など、「韮菜万頭 無料」とチラシをばらまいたためにお客が殺到。
 チラシの威力が効いてお客は列を成す。
 ところが、初日からこんなに来るとは考えてなかったから、スタッフはみなてんてこ舞い。従業員同士の怒鳴り合い、ケンカにまで発展。
 この場から消えたい・・・。

 「とてもやってられません」と同時に4人も辞めてしまった。
 チラシはこの店のまずさとひどさを宣伝するだけで終わった。開店4日目にして、お客と従業員の双方から見捨てられた。

 通常、飲食店の採算ラインは、一坪当たりの売上が月間10万円、月30万円あれば繁盛店に入る。
 その点、この店は20坪で50万円。あらゆる経費を削ってもこんだけ。超低空飛行もいいとこ。
 売りは「韮菜万頭」。何しろ、店名にしたくらいだから思い入れも強い。
 香港で食べたイメージから、自分で勝手に作った。
 けど、いや、だから・・・味がダメなのよ。

 そんな時、ある福建人がオレを雇ってくれと言ってきた。出稼ぎ労働者。たぶん、こんな料理ならオレのほうが上手だ、と感じたのだろう。
 で、雇う。これが正解。
 売上がどんどん上がっていった。

 しかし、メインの韮菜万頭だけは改良しても改良してもダメ。
 そこで、伝手を頼って本場香港へ。
 超一流の料理人に作ってもらう。どう作るかをじっと観察。
 ぜんぜん違う。開眼。
 やっぱり、プロの仕事は違います。ほんの些細なコツ。だけど、このコツがすべての味を決めるわけよ。

 著者の仕事は料理人というプロの人間との格闘にある。包丁が飛んでくることもあった。けど、ひるまない。
 この世界、プロの料理人が命令を聞くのは、先輩か自分より力量が上と認めた人間だけだ。
 まして、オーナーシェフでもない、正式な料理の修業もしていない人間が自分勝手に料理を作り、プロの作った料理をチェックし、味、盛りつけ、量などを手直しする。こんなことは許されないのだ。
 けど、それをあえてやる。
 大義名分は「食べるプロである」「お客の代表である」ということ。これっきゃない。

 修羅場をくぐるのは、応援団の時から慣れている。だから、動じない。丁々発止の掛け合いは金融機関、不動産の時に磨きをかけた。
 つまり、人間関係、折衝能力は抜群なのよ。

 想像力の足りない料理人は、自分のやってきた範囲内のことを、ただ反復することしかできない。そこから一歩も前に出られない。
 成長している人、進化している人は一歩踏み出る能力を持っている。それは勇気といった大げさなものではなく、知らない中に踏み出ている、という性分みたいなものじゃないかなぁ・・・。
 変化大好き、好奇心が強かったり、おっちょこちょいだったりね。

 韮菜万頭という店からスタートして、万豚記、紅虎餃子房という二大ホームランを打った。
 この店の利回りたるや驚異的。
 500万円程度のコスト。で、月間1400万、1000万を稼ぎ出す。1000万円としても、年利2400パーセントである。
 元々、金融業をやっていただけに、もしこんな高利の利息をとったら逮捕されてしまう。

 「あぁ、オレはいままでなんて知恵のない仕事をしてきたんだろう・・・」
 おまけに、美味しかった、また来るよ、とお客から感謝される。
 金融業者の時に、「あんたの会社、いい会社だね」と言われたことがあったか? あるわけない。当たり前だけど・・・。
 儲かる飲食業に目ざめた!
 250円高。
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2 「ジブリマジック」
 梶山寿子著 講談社 1680円

 いまちょうど上映中の「ハウルの動く城」・・・面白いですねぇ。これ、とってもいいです。
 人間は1人では生きられない。けど、ともに生きる単位は家族である必要はない。ロボットだって、犬だっていいわけさ。
 子どもの情操教育にもいいし、もちろん、大人が見ても感動します。モノではなく、もっと大切なことに気づかせてくれる作品。

 ハウルにかぎらず、ジブリの作品はすべて見ています。DVDも持ってます。何度もみてしまう。とくに、トトロ、宅急便、もののけ、おもひでぽろぽろ、千と千尋・・・。
 千と千尋(Spirited away)はアニメ部門でオスカーを取りましたよね。

 で、この本はサブタイトルに「鈴木敏夫の創網力」とある通り、ジブリのマネジメントを担当する鈴木さん(徳間書店では常務取締役)を中心に精力的に取材したものです。

 どうして、徳間?
 だって、スタジオジブリは徳間書店の事業部の一つなんだもの。
 1985年、徳間書店によって設立されたのよ。宮崎駿、高畑勲という監督を柱に、作家性の強い劇場用長編アニメを制作してきました。
 設立のきっかけは、「風の谷のナウシカ」が成功したからね。で、「ラピュタ」を制作する際に、スタジオを作ったわけ。
 ちなみに、ジブリってのはサハラ砂漠に吹く熱風のこと。

 年間280本もの邦画が封切られます。
 去年のランキングを見ると、一位「踊る大捜査線」(173億円)、二位「ポケモン」(45億円)、三位「コナン」、以下、「黄泉がえり」「座頭市」「ドラえもん」「ワンピース」(20億円)てなところ。
 「ハウル」がどこまで記録を塗り替えるか楽しみですなぁ。

 いままで販売されたジブリ作品のDVD700万枚、ビデオ1500万本。

 「ジブリが稼いだカネは徳間の大借金の返済に消えていく。だから、いい作品が創れるんだ」
 儲けることしか考えないクリエーターではダメ。毛沢東じゃないけど、若くて、無名で、貧乏じゃないとダメなんだ。

 この人、映画のことなんか、ちいとも知らなかった。当たり前だ。出版社だもの。
 けど、「いろんな人から吸収し、失敗から学んで成長する。今日の彼は明日の彼とは違う。会うたびにしっかり進化している」というわけさ。

 大半のアニメ制作会社は経営難なんですね。ジブリの成功は例外なんですと。
 そういえば、トトロでさえ劇場公開直後は客の入りが悪くて即、打ち切りだったもんね。

 ほかのアニメ会社とジブリの違う点?
 それは多くのアニメ会社はテレビ・シリーズを手がけて安定経営を図っていること。ところが、ジブリは映画しかやらない。しかも、DVD、ビデオといった将来の収入源とミックスして経営を考えるのではなく、ひとえに劇場での売上、つまり、配給収入だけで考える、という点。

 ジブリが企業とのタイアップを本格的に始めたのは「ラピュタ」から。
 味の素が同名の清涼飲料水を売り出したでしょ。あまり話題にもならなかったけどさ。
 「もののけ姫」はディズニーとのタイアップですよ、これ。世界配給するためにとった戦略だよね。

 ディズニーも不振に喘いでたでしょ。あの時、2人の男が再建させたわけですけど、1人はマイケル・アイズナー(現・ディズニー会長)、もう1人はジェフリー・カッツェンバーグ。
 このカッツェンバーグはディズニーと大喧嘩の果てに飛び出てしまいます。で。、スピルバーグと作ったのがドリームワークスよ。
 といえば、ピンと来ない?
 いま、これまたちょうど「ターミナル」って映画が上映されてます。トム・ハンクス主演のね。これ、彼の作品です(封切日に観ました!)。
 この人がディズニー時代に制作したのが「アラジン」「リトルマーメード」「プリティウマン」。ドリームワークスではあの「シュレック」がそうですね。
 鈴木さんは彼にジブリ作品をいくつも見せています。いずれ、タイアップして仕事するのかなぁ。

 ところで、「イノセンス」で主題歌唄ってた伊藤君子さん。このジャズシンガー、私、大好きなんだ。いいよ、かなり。
 150円高。
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3 「三三七拍子」
 太田光著 幻冬舎 520円

 ご存知、爆笑問題の太田さんです。
 高校まで孤独で、クラスメートに友人が1人もいなかった・・・ことは有名ですね。
 九州への十日間の修学旅行でも、むりやり班に入れられたものの、みんなに撒かれて、結局、1人で喫茶店でずっと読書してたんだってさ。

 だから、学校でいちばん嫌いだったのは休み時間。授業時間はいいけど、休み時間になっても話す相手が1人もいなかったからだって。1人だけポツンとしてることにだれか気づいて騒ぐのではないか、と心配でしょうがなかっただと。
 自意識過剰だよね。ホントは孤独が嫌いだったんじゃないかなぁ。

 けど、孤独になるとホッとする・・・わかるなぁ、この気持ち。つるんで遊んでいる人も少なくないけど、1人がいちばんいいという人もいますよね。

 わたし、高校一年から吉祥寺の曼陀羅という店に1人でよく行ってました。
 ガキのくせに大学生とかの間に挟まってね。当時からアルコールだけは強かったから、周囲はこいつもどっかの大学生だろうと思ってたみたい。
 上田正樹さんがまだサウス・トゥ・サウスというバンドを率いていた時。生でよく聞きましたよ。
 あそこ、しょっちゅうライブやってたなぁ。いまもそうだけどさ。朝までそこにいて、翌日、学校には行かずに喫茶店で寝たり、時間潰したりするわけ。
 受験勉強もしないで1人でいかがわしいところに出入りしてる変人だとクラスメートは思ってたようで・・・当然、友だちはいなかったなぁ・・・。大学生とつき合ってる方が多かったものね。

 この本はおちゃらけではなく、かなり深いことを考えてる太田さんの姿が見え隠れしてます。
 たとえば、
 「社会的制裁が嫌いだ。自分はけっして間違ってないと信じ込んでいる時の人間の感じが嫌いなのだ。可愛げが無い。もしかしたら、自分は間違っているかもしれない。と少し自信が無いくらいのほうが、人間は、いい」だと。
 「芸人は、人間が不完全であることを表現する職業だと思う。人間は不完全なのだ。自分も、他人も。そして、その不完全さを愛しているのが、芸人なのだ」

 ・・・そうか、わたしは芸人だったんだ。
 よぉし、これからインタビューに答える時、本の奥付に出す略歴、そして名刺の肩書きには、大きく「芸人」と書こう。

 250円高。
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