2004年12月06日「考える技術」「霧笛荘夜話」「トヨタ流 自分を変える成功ノート」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「考える技術」
 大前研一著 講談社 1680円

 元マッキンゼー日本支社の代表。
 わたしが最初にこの人の本を手に取ったのは「企業参謀」だと思います。いい本だったなぁ、たしか、学生時代ではなかったかなぁ・・・。

 就職するつもりなどさらさらなく、ビジネス書なんてまったく関心がなかった。
 マスコミをはじめとして、周囲では商社、金融を志望する同級生が多い中、「オレは町人ではない。武士だ」と嘯いて、講義でも経済、民法、商法、マーケティング、会計学などは一切とらなかった。
 
 それがどういうわけで、こんな本を手にしたのでしょうか。いまとなっては不思議です。「月刊プレジデント」がまだ歴史とマネジメントを絡めた企画だった時、これにもはまってたんですね。
 どういうわけだろう。あれ、町人、すなわち、ビジネスマンの読み物でしょう。

 不思議です。

 さて、本書は大前流のものの見方、考え方、とくにコンサルタントとしての目のつけどころ、勘所がわかるかもしれません。

 「重要なのは、仮説ではなく結論を導き出すこと」
 ところが、コンサルの世界では、仮説でしかないことを結論として示し、この問題を解決することはこんなに難しいというのが提言だと勘違いしている人も少なくありません。

 原因になっている部分を直さないかぎり、問題解決は望めません。

 営業マンに元気がないからといって、車座になって飲み会をやる。「じゃあ、明日から頑張っていこう」と気勢を上げたところで、製品そのものに問題があれば、まったくなんの解決にもならないわけ。

 仮説に対する閃きは、現場で話をしている時に生まれることが多い。十分な仮説が出てくるまでは、自分が現場に出なければダメ。
 仮説そのものを部下に頼って出させていてはダメなのだ。

 たとえば、先頃、産業再生機構送りとなったカネボウ。
 花王との合併話に際して、「組合がうんと言わないので・・・」と社長が弁解していましたけれど、もし、そうなら、組合が経営をすればいいのです。
 彼の結論は以下の通り。
 「花王に4000億円で売却する」
 「産業再生機構が3660億円出して再生させるのは間違いである」

 その理由については、本書をご参照のこと。

 ところで、大前さんはMIT時代、ドクターの試験を受けた時、答えはすべて合っていたにもかかわらず、見事に落とされた経験がある。
 二度落ちると退校処分だから、これはショック。

 問題は「月の上に架空の原子炉を作り、それに地球上と同じ仕掛けのカドミウムの制御棒を突っ込むと、停止までに炉心の温度は何度上がるか。これは安全か」というもの。
  
 彼の回答は「2.8度上昇。この数字なら安全」。これ、正解です。受験した中で正しく計算できたのは彼一人。
 しかし、不合格。

 ここがアメリカ。
 「数字が合っているだけで思考プロセスがはっきりしていない。これはエンジニアとしてもっとも危険」
 合格者は数字は違っていても、「安全かどうか」について論陣を張る。なぜ、重力の小さな月の上で地球上と同じやり方をすると危険なのか、どうすればより安全になるのかという思考プロセスを解答用紙に書き込んでいたのです。
 150円高。
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2 「霧笛荘夜話」
浅田次郎著 角川書店 1575円

 霧笛楼ってのが横浜の元町にありますけどね。フランス料理屋です。港の見える丘公園にも同名の喫茶店があります。

 霧笛荘ですか?
 かなり意識してつけましたね。で、こんなアパートメントのある場所、わたし、わかります。
 中華街にものすごく古風なホテルというか、宿があるんですよね。観光客は多いけど、その存在にだれも気づかないで過ぎゆくだけ。

 けど、その宿がモデルだと思うよ。この小説の・・・。

 運河のほとりに立つ古いアパート霧笛荘。そこでうごめく7人の住人。
 みんな訳ありでここに辿り着いた人間たち。

 たとえば、自殺未遂の女、千秋が窓辺にじっと座っていた「港の見える部屋」。ええとこの奥さんのくせに自我に目ざめたのか出奔してきた女眉子。その自殺までの一部始終を見ていた「鏡のある部屋」。
 なにをやっても半端で、バカ正直で損ばかりしているやくざ。その男が住んでいた「朝日の当たる部屋」。
 そのやくざに身代わりになってもらって運が向いてきた金髪ロッカー。けど、彼もまた、小児麻痺の後遺症に悩む美しい姉を鉄道事故で亡くします。金髪の男が住んでいた「瑠璃色の部屋」。
 ロッカーの化粧を手伝ってくれるのはオナベ。元々は町工場で働く美しい少女。兄と父に金を無心され、社長から小遣いをもらうかわりに男と女の関係になった。花が好きでいつも華の匂いがする「花の咲く部屋」・・・などなど、7つの部屋があるわけ。

 部屋に物語があるわけではなく、そのに住む人間にそれぞれドラマがあるわけさ。

 人間てのは面白いね。で、不思議だね。

 人は見かけによらぬもの・・・というけど、やっぱり下品な人間は下品な顔してます。卑しい人間は卑しい顔してます。
 欲がある人間にはそれがわからない。

 「あれ、あの子、あんな顔だった?」
 「もっと可愛いかったんじゃない・・・」

 その顔には卑しさしか映っていない。
 不思議、なぜ、どうして?
 実は元々、卑しいの。周囲の人間はみながみな下品で卑しいと言っていた。気づかなかったのは本人だけ。

 目から鱗が落ちた途端に気づく。
 とんでもない間違いを冒すところだった・・・。
 350円高。
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3 「トヨタ流 自分を変える成功ノート」
 若松義人著 大和書房 1470円

 いまいちばん注目されているスキル。それがトヨタ流でしょうな。
 なんつったって、ミサワにしてもなんにしても景気の悪い会社はすべてトヨタに押しつけちゃう。そんな政府の意図が見え見えです。
 
 さて、トヨタ流とはなにか?

 「改善は、知恵とお金の総和である。コストにしても、ゼロを一つとって考える。何千万円というコストなら、それをどうすれば何百万円という桁にできるか、を考える」

 人間、知恵が出れば知恵に頼るけれども、知恵が出ないとお金や人に頼りがちですもの。
 では、その知恵をどうすれば体得できるのか?
 知恵を出す力を身につけたければ、制約条件をつければいい。日々の当たり前の仕事を見直し、3時間を1時間半でできないかと考える。

 たとえば、生産現場の作業は、細かく観察すると作業とムダに分けられます。この作業にしても、正味作業と付随作業に分けられるのです。

 あるトヨタ関連企業の経営者。
 1年目に赤字一掃、2年目に黒字転換、三年目に先行投資をするために赤字転落してしまう。
 そこでズバリ!
 「来期は赤字になります」
 「来期は赤字にします」
 あなたなら、どちらを答えます?
 実はこの二つの考え方には雲泥の差があるのです。
 150円高。
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