2004年11月22日「一攫千金」「車掌さんの恋」「両さんと歩く下町」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「一攫千金」
 安田久著 講談社 1560円

 この人も、異色テレビ番組「マネーの虎」に出演してる経営者。
 刑務所レストランで大ブレイク。いま、その他の店7店と合わせ、年商十億円を売り上げてるそうです。

 刑務所レストラン「アルカトラズB.C.」。紀元前ってことね。いまのアルカトラズではなくて、昔のそれって意味。
 アル・カポネが収監されてた時のイメージかな。
 客は受付で手錠をかけられ、鉄格子の中に。トイレに行く時は「仮出所」。会計は「保釈金」。
 帰る時は「ご出所おめでとうございます」と大声で送り出す。
 犯罪カクテルと銘打ったものは、注射器、ビーカー、試験管、カプセルなどに入れて出す。料理も援助交際サラダ、女人禁制、ポコチンソーセージってな具合。

 店内では、従業員によるパフォーマンスもある。言葉遣いはそれなりに乱暴。だって、お客は囚人なんだもの。
 面白いね。話題になるね。だから、六本木でわずか七十坪で月間三千万円を売り上げたわけ。
 すべては、コンセプトの勝利。

 えっ、コンセプトって何?

 こんなイメージの店を作ろうではなく、「こんなメッセージを送ろう」というもの。それがコンセプトだと思います。

 それに反して、システムとは客単価4000円。靴を脱いであがる。半個室にするといったもの。

 この人、秋田の男鹿半島の貧しい山村の出。なにをやってもダメで、とにかく、都会に憧れて出てきた。
 レストランのウエイターの時、ちょっとしたサービスがものすごく喜ばれた。以来、飲食業が天職と確信。

 天職って意味、わかる?
 「これでメシを食う」という覚悟。「オレにできるのはこれっきゃない」ってことなのよ。
 この人の場合、それが飲食業だということを、若くして悟ったんでしょうな。年取っても、悟れない人が少なくありませんものね。
 それに飲食業って無限の可能性がありますものね。だって、人間はだれでも食べたり、飲んだりするでしょう? 職業の中でいちばん多いものね。だから。

 「飲食業は学歴不問。いや、下手にあったらプライドが邪魔して成功しないかもしれない」

 全盛期を少し過ぎた当たりのイタトマに就職。基礎はここで学んだ。
 すぐに店長になる。

 1998年に独立。例のアルカトラズをオープン。

 どうして独立?

 サラ金からの借金五百万円を返したいから。なにしろ、このくらいの額になると、毎月、少しずつなんて半端なことしてたらダメ。ドカーンと一発、当てないとね。
 まだある。「オレを見捨てて呆れて実家に戻ってしまった女房」を見返したいから。
 人間にはこの怨念をエネルギーにするってこと、たしかにありますね。
 「あいつを見返してやりたいから、大金持ちになりたい」ってのは、寛一・お宮の「金色夜叉」(古い!)の時代から、いやもっと前からありますよね。
 もう一つ。それまで勤めていた飲食店の社長から罵倒された言葉を覚えているから。
 「お前のことだ。また借金して終わりだよ。もし3店舗出したら、この敷居をまたいでもいい」

 マネーの虎がお金を出す理由。
 それは3つだけ。すなわち、アイデア、数字、人間性ってこと。
 これすべてが揃わないといけないってわけではなく、このどれか一つがあればいいわけ。

 もちろん、優先順位はあります。いちばん重要なのはアイデア、つまり、ネタ。これさえあれば、あとはどうにでもなる。

 250円高。
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2 「車掌さんの恋」
 有吉玉青著 講談社 1680円

 40歳の車掌さん。
 車掌さんて仕事、勤務時間というか、乗車時間が少しずつずれていて、28日をワンクールにして元に戻るらしいね。
 トリビアだな、こりゃ。

 「乗客の安全確認」「アナウンス」「出発進行!」とそちらにばかり気をとられていたからか、車掌室に忍び込んだ女子高生に気づかない。
 「次の駅で降りなさい」
 「いや、もっと先まで」
 立ち上がろうとする彼女の頭を押えます。車掌室に紛れ込んでる人間がいることが、乗客にわかってしまうものね。
 で、自分の降車駅まで乗っけってちゃった。しかたないもの。

 「車掌さん、後ろの景色見たことないのね?」
 「えっ?」
 「いつも前ばかり見てるから」

 数日後、赤いコートを着た女性が走り込んできた。乗車する直前、ドアが閉まった。
 足が宙に浮く。ものすごい形相でにらみつける。

 「あの人、大丈夫かなぁ?」と降車駅で気をつける。すると、それ、あの女子高生。
 「バカ」の一声を残して消えた。 

 ある日、また、ほかの女子高生が乗ろうとした。で、注意。
 「これ、流行ってるんです。一回だけでいいから見逃して」
 「この前の彼女、だれ? いちばん最初に乗ってきた子」

 車掌さんは大学時代につき合っていた彼女と別れました。
 理由は、もう先の人生が決まっている。このままいくと結婚する。その後の生活も想像がつく。彼女の人生を拘束することになる。
 だから、別れた。

 彼女の結婚式の二次会にも参加。花を持ってかけつけた。
 以来、どういうわけか、年賀状のやりとりがずうううっと続いている。最初は二人の写真。その後、赤ちゃんの写真。家族の近況報告などに変わっていく。

 「あっ、つばさのことね。髪の毛の少し茶色い子」

 つばさ? つばさ、つばさ・・・。彼女の娘だ。そうか、もうそんな年頃なんだ。

 表題作ほか、四つの掌の小品。すべて、電車に関連することがテーマ。たとえば、中吊り広告とか、網棚とかね。
 150円高。
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3 「両さんと歩く下町」
 秋本治著 集英社 700円

 両さんてのは、マンガ「こち亀」の主人公である両津貫吉のこと。
 こち亀、知らない?

 こちら亀有公園前派出所、ってことね。
 で、その両さんの原作者である著者が下町をいろいろご案内するってパターンよ。もちろん、マンガが挿絵のように入ります。

 下町かぁ・・・。好きだなあ。気取りがなくて。
 パジャマのまま歩こうとは思わないけど、上下ジャージで平気、平気。歯、磨きながら、新聞もって、商店街を散歩。これじゃ、オヤジだな。

 自分でいちいち歩いてチェックしたことがわかります。地元の人間にもインタビューしてますし、この土地はマンガではこんなふうに紹介したっていう解説もあります。

 ちょっとした「東京ウォーカー」「一個人」「サライ」「大人の散歩」になってると思うよ。
 150円高。
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