2006年04月25日「生きざま死にざま」 三國連太郎著 ロングセラーズ 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 映画「北辰斜にさすところ」の製作プレイベントを先週水曜日にサンケイプラザホールで行いました。
 参加者にはめっちゃ好評のようで、いずれ形を変えて第2回を挙行したいと目論んでおります。
 さて、この映画の主人公を務めてもらうのは三國連太郎さん。
 本書は三國さんの最新作ですね。

 いま、84歳。とてもそんな年には見えません。と同時に、こんな年のとりかたは男としていいな、と憧れたりします。
 「♪ダンディズム♪」っちゅうのかね。チョイ悪オヤジ、チョイもてオヤジなんてのが霞んでしまうわな。

 この人、俳優志望じゃなかったのね。終戦後、上海から福岡に戻ってきたのはいいけど、その後、広島へ。職を求めて全国転々とする中、食い詰めて東京にいる友人を頼ってきたわけ。
 で、東銀座のその会社に行くと・・・友人は辞めてたのよ。空振り。
 住むあてもないし、もち、仕事のあてもない。
 どうすっかなぁ・・・思案顔でトボトボ歩いてた。

 「どう、テスト受けてみる気ない?」
 「テスト?」
 「カメラテスト」
 「メシ代と電車賃、先にくれるならやります」
 大船まで連れて行かれます。声をかけたのは小出孝さん。松竹のプロデューサーよ。

 とにかく、撮影所にいれば食券にありつける。そうすれば、今日1日生きられる。

 松竹に木下恵介という監督がいます。
 「善魔」という映画を撮ろうとしてました。主役は岡田英次さん・・・たしか、日本映画で最初にキスシーンを演じた人ね(ということは女優にもいるわけで、それは久我美子さん)。
 けど、事情(レッドパージ)があってこのキャスティングが浮いちゃいます。
 で、三國さんが抜擢されちゃうわけ。


待ちに待ったデビュー作。けど、これが葛藤の原因になります。

 三國さんて新人でしょ? どこでもあるように、会社は売り出し方を考えるのね。
 「よし、君は大阪大学工学部出身。スポーツ万能。水泳と体操の選手。大会のチャンピオン。それでいこう」
 芸名は映画の主人公と同じ名前にしちゃった。

 ここから「虚像としての三國連太郎」と「実像としての佐藤政雄」との葛藤がスタートします。
 虚像ってのは理想の姿。で、実像はいまの自分のことよ。自分は自分のことを知ってるけど、ファンは「嘘の自分」しかしらんわな。
 で、そこに軸を置いて、あぁだこうだと言うわけさ。

 さて、あなただったらどうします? 「しかたないさ」と膨らんだ虚像で売ろうとする? 仮面の自分に満喫しちゃう? 現実を見ずに幻影を見たまま生きる?
 ほとんどのアイドルは虚像が1人歩きして生きていきます。気づいた時には、引き戻せないところまで来てるかも。

 こんな時、正直で真面目で、そして不器用な人間ほど途方に暮れると思うね。
 三國さん? その典型だもの。 
 「早く三國連太郎にならなくちゃ」
 人気が上がれば上がるほど、焦ったと思うね。

 ある時、「朝日ジャーナル」の編集長の文章を読んで、この人ならと感じたらしい。で、この人を対談相手に記事の中でカミングアウトするわけさ。
 もち、マスコミからは叩かれたよ。けど、本人としてはそれでいいと思ってた。吹っ切れたんだな・・・とうとう、虚像を抜け出したんだよ。
 たぶん、実質的にはこの瞬間が独り立ちだったのかもしれないね。

 よけいな化粧すると、皮膚呼吸できなくて生きるのが少し苦しくなることってありますよ。
 裸で生まれて裸で死んでいく。人間はそれでいいと思います。金、地位、名誉・・・いろんな武器をつけたくなる。でないと、いまの時代、守れないからさ。けど、あまり武装すると重くて歩けなくなっちゃう。
 もっと素直に、ストレートに、正直に生きたいね。
 「アナタガ スキ デス!」ここはチャン・ドンゴンで行こうよ。
 ある意味、告白の書。300円高。