2003年12月08日「一流になる人のビジネスマナーの本」「楽しんだ者勝ち」「どうせ曲った人生さ」
1 「一流になる人のビジネスマナーの本」
西出博子著 青春出版社 1300円
ビジネス書は仕事柄、よく見てる方だと思いますが、唯一、まったく見ない分野がこれ。ビジネスマナー。
だから、マナー違反が多いのか・・・。
名刺の渡し方とか、宴会時の席次とか、タクシーではどこに乗ればいいとか、小うるさくて大嫌いなんですね。
「そんなもの、どっちでもいいじゃないか」とは言わないまでも、常識でわかるではありませんか・・・。
と思っていたら、どうも時代はそうではないようです。
なにしろ、常識のない人間が増えてます。「常識」といっても、小泉さんの常識とわたしの常識は当然、違うわけです。
これほど、曖昧なものはありません。
だから、「ここまではきちんと押さえておけよ」というボーダーラインがあるわけですね。
そこで、生まれたのがマニュアルですな。
マニュアルとは、5分前まで使い物にならなかった人間を今から使える人間に変える「魔法の教科書」のことですよね。
しかし、マニュアルはすべてに使えるわけではありません。
「ハンバーガー30個ください」
「こちらでお召し上がりですか?」
「1人で食えるか。大食いチャンピオンじゃねぇぞ!」
こうなります。
本書は名刺やタクシーなどに代表されるような些末な(大事だけどね)マナー云々の情報はありません。
では、何があるかというと、マナーの本場イギリスではこんな自然にマナーがビジネスシーンのそこかしこで披露されてますよ。それで、こんなに仕事で役に立ってます、という情報が満載されているのです。
日本人は躾(しつけ)がうるさく言われてきました。
けど、それは自分自身を律する意味合いが強く、社会、公共の中でどうなのかという観点は薄いですね。
けど、イギリスのそれは常に社会の中での個人の律し方がガキの頃からたたき込まれているわけです。
これはホントに子どもの頃からの習慣ですから、レベルの深さではマニュアル教育どころではないんです。
著者自身も、「マナーの本質なんてどうでもいいから、仕事に役立つマニュアルを教えてくれ」といつも教育担当者から言われたとか。
「マナーはマニュアルではありません」と反発すると、「かわいげがない」とレッテルを貼られたとか。
これが契機となり、オクスフォードでマナーを真剣に学ぶことになります。
「ボクは他人を指さして、その過ちを指摘したりしない。たとえつい簡単に指摘してしまうようなことであっても、みんながそれぞれの人生とつき合い、正しいと思うことを認めてはじめて同じように扱われることを期待できるのだ」
この発言の主はベッカムですね。
来日した時のフィーバーぶりは大変なものがありました。テレビにも引っ張りだこ。
ある番組で子ども達との絡みがありました。サッカーのドリブル、シュートでベッカムに勝てばプレゼントがもらえる、というゲームです。
もちろん、ベッカムが本気になったら、勝てるわけがありません。
笑顔と握手で子ども達と接します。子ども相手だから手を抜くだろう、と思いきや、これが真剣そのもの。完全にプロの顔つき。
そして、威力のあるシュートを蹴りこみ、倍の得点差をつけてベッカムの勝ち。
子ども達はしょげかえる。
「そこまでやらなくても・・・」という雰囲気がいっぱい。
けど、ベッカムがこう言うんですね。
「いいセンスだ。このまま練習していけば、きっといい選手になれる。ただ、気をつけなければいけないのは・・・」とプロからのアドバイスを始めるわけ。
子どもだからといって手を抜かない。相手をきちんと認める。そして、きちんと扱う。これがマナーの神髄なんですな。
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2 「楽しんだ者勝ち」
昇太・たい平著 インフォバーン 1600円
二人の落語家によるインタビュー集なんだけど、これ、傑作です。取材相手は基本的には中小企業の経営者ばかり。それもみんな創業者だから一癖も二癖もあるんだけど、この二人のつっこみに笑い出しちゃう。
相手は気を許しちゃうから、日経あたりの記者なら絶対聞き出せないようなことも聞き出しちゃう。
お見事。
ところで、インタビュー相手だけど、本欄でも紹介したことがある岡野雅行さん(岡野工業)、中村義一さん(三鷹光器)、野田員弘さんなどなど、総勢23人。
中村さんといえば、スペースシャトルに搭載されているカメラを作った人。
工場は忙しくて人が足りない。だから、「率の悪い仕事は断れ!」「インターネット経由の注文なんてすべて断れ」と激しいのなんの。
「そんなチョロい考えのヤツの注文なんか受けるんじゃねぇ」
では、どんな注文なら受けるかというと、手紙かはがきに筆で書いてきた人だけ。
ライカの社長にも、「英語で書いてくんな。読めねぇ」の一言。慌てて、日本で翻訳してもらって、もってきたとか。偉いねぇ。
面白かったのは、若林音響の若林哲朗さん。
この人の会社は録音スタジオとか音響実験室などの設計、施工をしてるんだけど、音というのは面白いね。
これ、波動でしょ。
ガタガタ揺れると評判の幽霊マンションがよくあります。近くにトラックが走ってるわけでもない。地震ではもちろん、ない。けれども、いつも決まった時間に揺れるわけよ。
これ、たいていは音で揺れてるわけです。
たとえば、川崎にクラブチッタがある。そこでライブをする。いつも決まった時間ですよ。すると、そこから400メートルも離れた料亭のふすまがガタガタ揺れる。
揺れるのはこの料亭のふすまだけ。あとはなんにもないの。
これはしばらく原因がわかりませんでした。まさか、音が伝わって伝わってここまで来たとはだれも気づかない。
周囲には鉄筋のビルがたくさんあるからね。そんなに離れたとこが原因だとはわからないよね。
人間も低周波でいくらでも動くらしいですね。
たとえば、内臓は7〜8ヘルツで共振します。目玉が揺れるから像がぶれるんです。もちろん、耳には聞こえないけど、不快音とかもあるわけです。
いま、エアコンでも洗濯機でも「静か」というキーワードがものすごく大きい。車でもそうです。エンジンの音、ドアの音でもそうです。
「静か」というキーワードが付加価値になるんですね。
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3 「どうせ曲った人生さ」
立川談四楼著 毎日新聞社 1400円
著者は立川談志さんの七番目の弟子。小説も書ける落語家です。
というよりも、談志さんが落語協会を脱退するきっかけを作った張本人といったほうがわかるかな。
そうなんです。落語協会の真打ち昇進試験に臨んだんですが、これが落ちちゃう。そこで、「俺の弟子は三平の弟子より下手だったてぇのか!」と一門を率いて脱退しちゃうんですね。
以来、立川流は席亭では落語はできなくなります。そして、ホール落語とか独自の興行を打って出るわけですね。
「出前寄席」というのも立川流ですね。前座1人、二つ目2人、そして真打ち1人の組み合わせで全国どこでも行っちゃう。これで十万円を切る値段。
興行先に行くと、司会者はほかの落語家。これが自分たち4人のギャラよりもはるかにたくさんもらっている。悔しい思いを何度もしたとか。
「談四楼師匠は天才です。ネタミ、ソネミ、ヒガミの大家です」とは談志の弟子立川転志こと野坂昭如さんの評。たしかに、本書でもそこかしこで売れてる芸人に対して正直にあけっぴろげにひがんでますよ。
「甘客(あまきん)」という言葉があります。これは些細なことにも反応して笑ってくれる客のこと。こういう人ばかりだといいですな。
今日の落語はどうかな、と客が評価すると同様に、今日の客はどうかなと落語家のほうでも吟味してるわけ。とくに、プロともなれば自分の前の噺家の落語にどんな反応をしているかで、客のレベルがわかります。
「二日酔いでとても噺なんかできねぇ。けど、今日は客がいいから噺すとするか」
これ、談志さんの弁。
実は「芝浜」のまくらですよね。この噺、二日酔いがキーワードでしょ。
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