2001年10月08日「物語 イギリス人」「安心社会から信頼社会へ」「お金をたくさん稼ぐには。」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「物語 イギリス人」
 小林章夫著 文春新書 680円

 「物語・・・人」というシリーズにするんですね。以前、オランダ人を紹介しましたが、おもしろかったです。
 今回もそこそこおもしろかったですが、加瀬英明さんのイギリスもののほうがいいな。
 でも、お勧めですよ。

 イギリスと聞いて、なにを連想しますか。
 わたしは、ミスター・ビーンとレンジ・ローバー(長年乗ってましたから)、それとグリア・ガーソン(この女優、大好きなんです。いいですよ、『心の旅路』)、あとは味気ない食事(地方はうまい)かな。
 
 一口にイギリスといっても、いろいろあるんです。
 まずイングランド、それに男がスカートをはくことで有名なスコットランド、ウェールズ、それに北アイルランドですね。
 わたしはこのなかでもアイルランドが好きですね。単純なんです。アイリツシュ・ウィスキーがうまいからです。テロで有名なアイルランドは嫌ですけどね。
 このアイルランド出身の作家にオスカー・ワイルドがいますよ。
 「なにか貴重品を申告するか?」とアメリカの税関で聞かれると、「わたし自身である」と答えたことは有名です。
 
 著者は茶色のジャケットを着ていたら、「きみはどちらかというと、カントリーが好きなのかね」と聞かれたそうです。質問の意味がわからなかったので、怪訝な顔をしていると、「茶色のジャケットはカントリーで着るものだからね」と言われたそうです。
 
 もちろんイギリスには「服装コード」などありません。
 なにしろ、この国には成文憲法すらないんですからね。でも、服装には「隠されたコード」があるんです。

 「汚れやすい白のシャツを隅々まで一点の汚れなく着ているのが、しかるべきイギリス人なのだ」
 だから、縞柄とかボタンダウンは着ません。カフスボタンなしも御法度だとか。
 そういえばボタンダウンはアメリカ人の発明でしたね。
 「でも、襟だけ白ければそれでもよし」なんていい加減な妥協をするのもイギリスです。

 わたしも白いシャツしか着ません。
 それも肌に直接身につけるようにしています。これは気持ちいいからそうしてるだけです。ただし、スーツのときだけですがね。
 白いシャツは汚れやすいですから、こまめにクリーニングに出さないとダメなんですね。着ているときも汚れないように気をつける。そのために発達したのがテーブルマナーではないか、とわたしは思ってるんですが・・・。
 

 イギリス人の特徴として、「調整能力のうまさ」があります。
 極端に陥らず、じっくり相手の言い分を聞く。そして両者の見解を見極めながら、微妙なバランスを生かして和解の道を開く。
 こんな芸当ができるのは、長期的展望と周囲の状況把握に秀でているからですね。そして、ここいちばんというときに英断を下す、という特性をも持ってます。
 ね、これ、どこかの国民性とまったく対極にあるでしょ。同じ島国にもかかわらず、違うもんですね。
 ただ、シャイで控えめなところは日本人と似ています。
 日本人とイギリス人が同席したら、だれか紹介する人がいなければ会話がないでしょうな。ジョージ・オーウェルはそれを「イギリス人の外国人恐怖症」という言葉であらわしています。日本人もそうですね。
 150高。


2 「安心社会から信頼社会へ」

 山岸俊男著 中公新書 760円

 これ、いい本ですよ。ぜひ読んでください。

 結論を言います。
 「他人を信頼することが本人にとって有利な結果を生み出す社会的環境」と「他人を信頼しないことが有利な結果を生み出す環境」が存在します。そして、この環境はわたしたち自身が作り出しているんです。
 
 たとえば、お役所仕事は非効率の典型とされています。
 たしかにそうです。
 仕事のできない人が役人になるのか、要領の悪い人が役人になるのか。おそらく、この掛け算だと思うのですが、この非効率さのベースには無数の煩雑な規則が横たわっています。
 どうしてか。
 それは国民を信じていないからです。煩雑にしないで、簡単にさせてしまうと、国民は勝手なことをしてしまう。そう確信しているんですね。
 ですから、わざわざ巨大な無駄を作っておく。それでもやりたいという人だけがこの無駄の山をかいくぐってきます。そして、そういう人にだけサービスするわけです。
 ということは、お役所に頼むことは「障害物競走だ」と心得ておくことです。こう考えれば、落ち着きます。でしょ?
 
 ここにおもしろい統計があります。
 「たいていの人は信頼できますか? それとも、用心するにこしたことはないと思いますか?」
 この設問に、アメリカ人の47%が「信頼できる」と答えているのに対して、日本人は26%に過ぎません。
 「他人はすきがあれば、あなたを利用しようとしていると思いますか?」という設問には「そんなことはない」というアメリカ人は62%、日本人は53%。「たいていの人は他人の役に立とうとしている?」という設問には、アメリカ人47%、日本人はわずか19%でした。
 日本社会は信頼社会、アメリカ社会は契約社会という「常識」はまったく逆の結果となりました。これは1600人のアメリカ人、2000人の日本人を対象にアンケートをした結果ですよ。

 タイトルにある「安心」と「信頼」の考え方は、実は別物ですよ。
 「どうして、お金を貸したんだよ。彼になんか」
 「だって、信じてるもん。友だちなんだから」
 これは「信頼」しているから貸したわけですね。
 「だって、担保取ってるもん」
 これが「安心」なんですね。
 わかりますか?
 わからなければ、「原理原則研究会」で勉強してください(もう締め切りましたけど。来年、どうぞ)。

 そんなこと言わずに、こうたとえたらどうでしょうか。
 パソコンを買うときに、有名メーカーの製品なら信頼できる。無名メーカーのものは信頼できない、という人は少なくないと思います。とくに、日本人はそうですね。
 すると、この人は実際には信頼ではなく、安心という価値で買っているわけです。というのも、有名メーカーは粗悪品を販売すれば評判が地に墜ちます。すると、メーカーが困るわけですね。膨大な損害を出すかもしれませんからね。
 てぇことは、顧客を裏切らないのではなくて、自分の利益のためにきちんとやると認識してるわけですよ。これは信頼ではなく、安心でしょ。

 ちょっと理屈っぽいかもしれませんが、論理思考をマスターしたい人には格好の頭の体操になるかも。
 200円高。


3 「お金をたくさん稼ぐには。」
 日下公人著 三笠書房 476円

 文庫です。文庫はいいですね。安くてお得です。
 そればかりではなく安くてもいいものがあります。ですから、わたしのようにバカみたいに(ホントにバカです)本ばかり買ってる人間にとっては、「失敗したぁ。またン千円
ドブに捨てた」というリスクを最低限に抑えることができます。

 だから文庫が好きなんです。ただ、字が小さいのはなんとかならんかね。
 以前、司馬遼太郎さんの全集を買ったんですね。
 いままで文庫でも読んでたんですよ。でも、ハードカバーの全集なら、字も大きくなるから読みやすいだろうって。なけなしのカネをわが家の財務省を騙して買ったんです。
 でも、これが大失敗。二段組みにしてやんの。比べたら、文庫のほうが大きいくらいでしたよ。
 もう、カネ返せ、この野郎!

 というような下品なことはおいといて。
 これは日下さんだから買いました。こんなタイトル、興味ないモノね。
 というよりも、別世界のことだと思ってますから、わたしは。
 日下さんというのはおもしろい人で、人よりちょっと早いんです。それで損してるんですね。一度、そのことについて聞いたことがあります。
 すると、「へへへ」と笑ってごまかされてしまいました。
 「江戸っ子ですな」
 ・・・そしたら、兵庫県の生まれなんですと。
 
 どうして損な人なのか、ちょっと触れときますか。
 学生時代、彼は自治会かなにかが予算が無くて困ったことがあるんですね。そのとき、横から顔を出して、小冊子を出してそのなかで広告取ればいいじゃないか。東大生が読むってのがミソで、店や企業にはいい宣伝にもなるぜ。腐っても鯛の東大生を採用したい企業なら、喜んで出稿してくれるんじゃないか・・・。これを横でじっと見ている人がいました。
 だれかは言いません。でも、わかるでしょ。
 いまだったら、R社は日下さんのビジネスモデルでできたようなもんですな。
 それは、大臣も務めた作家先生がいます。というと、Iさんもいますな。でも、S先生がいますね。
 彼の「地価革命」という本は、日下さんの「文化産業論」「ソフト化」というキーワードの延長線上にありますよ。わたしはそう読んでます。
 でも、この日下さんという人は宣伝が下手なんですね。自己宣伝しませんからね。
 でも、そこが奥ゆかしいところかな。
 最近、悲しいのは昔みたいに人の何歩も先を歩かなくなったことです。もっと、斬新な発想でハッとするような提案をしてほしいな。それが日下さんらしさだ、と思うんですがね。
 ということで、内容を書くスペースがなくなってしまいました(ホントはあるんだけど、いま、5つの版元から、やいの、やいのと締切をせっつかれてるんで、この辺でやめます。来年、講談社から立て続けに出す本はいい内容ですよ。乞う、ご期待!)。
 100円高。