2010年04月22日「鉄道員(ぽっぽや)」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
「あの人と出会っていなかったら絶対にこんな仕事はしてないね」
「あいつと会わなかったら、いまのオレはないな」
人間、不思議なもので、仕事でも地位でも境遇でも、自ら手に入れたと思いきや、実はだれかに導かれたおかげだった、ということが少なくありません。
私? そんな体験山ほどあります。
この人を導く人を「案内人」とか「ガイド」「ガーディアン」もしくは人によっては「守護霊」なんて呼んでるわけですね。
不思議なのは、案内人はその人に道を示したら、「これで私の役目はおしまい」とばかり、気づかれずにそっとフェイドアウトしてたりするんです。これ、不思議ですが少なくありません。
たとえば、浅田次郎さん。小学生の時、ある教師から、「君は嘘が上手いから小説家になれるよ」と言われたことがあるとか。中学生になるとブラバンに入部すると、この部活の先輩に小説の手ほどきなるものを受けます。
すっかり小説の面白さに魅了され、「小説家になりたいな」と夢を語る浅田少年に「きみには無理だ。ボクならなれるけどね」と言われてしまった。悔しくてね、負けないよう懸命に本を読んだ、とか。
と・こ・ろ・が。この2人。浅田さんにそれだけ伝えると、すぐに亡くなってしまうんですね。「残された人は堪りませんね。絶対に返事の届かない手紙を書き続けてるようなものですから」と浅田さん。
「おとうさん、わたしは幸せだよ」
佐藤乙松。北海道のローカル「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」駅長。といっても、1人であれもこれもしなくちゃならない。
「D51が日本を引っ張るんだ」という父親の言葉に魅せられて、ぽっぽや(鉄道員)になることを決めたけど、いよいよ定年を迎えます。
かつては集団就職の子供たちで賑わったものだがいまは昔の物語。時同じくして、この駅、というよりこの路線も廃止です。
ぽっぽや人生。好きなことばかりして生きてきたというけど、生れたばかりの一人娘を病気で失い、「ぽっぽやしかできないあんたの面倒を見なくちゃ」と言ってた妻にも先立たれ、いまや、乙松は天涯孤独の身。
そんなある雪の日、ホームで雪掻きをしていると、「人形を忘れた」と1人の少女が現れます・・・。
「おめえ、ゆうべからずっと、育ってく姿をおとうに見せてくれたってかい。夕方にゃランドセルしょって、おとうの目の前で気を付けして見せてくれたってかい。ほんで夜中にゃ、もうちょっと大きくなって、またこんどは美寄高校の制服さ着て、17年間ずうっと育ってきたなりを、おとうに見せてくれただか」
「したっておとうさん、なんもいいことなかったしょ。あたしも何ひとつ親孝行もできずに死んじゃったしょ。だから」
「思い出したんだべさ。この人形、おっかあが泣く泣くおめえの棺箱に入れたもんだべ」
「うん。大事にしてたよ。おとうさん、美寄で買ってきてくれたしょ。おかあさんがレースの服あんでくれて」
「そったらこと、おめえ・・・おとうは、おめえが死んだときも、ホームの雪はねてただぞ。日報書いてたんだぞ」
「そりゃおとうさん、ポッポヤだもん。仕方ないしょ。そったらこと、あたし、なぁんとも思ってないよ」
無口で融通の利かない父親がいちばん気に掛けていたこと。わが子の死に目にも、妻の死に目にも会えなかったこと。死を前にした父親に、「ありがとう」とひと言伝えたくて娘は現れたんですね。
浅田次郎さんに直木賞をもたらした珠玉の短編集『鉄道員(ぽっぽや)』の映画ですね。何回観てもいいな、やっぱ。
さて「中島孝志の 聴く!通勤快読」でご紹介する本は、『歴史・小説・人生』(浅田次郎編・河出書房新社)です。
これも対談本なんです。いいんだよなあ。なんともいえません。詳細はこちらからどうぞ。
「あいつと会わなかったら、いまのオレはないな」
人間、不思議なもので、仕事でも地位でも境遇でも、自ら手に入れたと思いきや、実はだれかに導かれたおかげだった、ということが少なくありません。
私? そんな体験山ほどあります。
この人を導く人を「案内人」とか「ガイド」「ガーディアン」もしくは人によっては「守護霊」なんて呼んでるわけですね。
不思議なのは、案内人はその人に道を示したら、「これで私の役目はおしまい」とばかり、気づかれずにそっとフェイドアウトしてたりするんです。これ、不思議ですが少なくありません。
たとえば、浅田次郎さん。小学生の時、ある教師から、「君は嘘が上手いから小説家になれるよ」と言われたことがあるとか。中学生になるとブラバンに入部すると、この部活の先輩に小説の手ほどきなるものを受けます。
すっかり小説の面白さに魅了され、「小説家になりたいな」と夢を語る浅田少年に「きみには無理だ。ボクならなれるけどね」と言われてしまった。悔しくてね、負けないよう懸命に本を読んだ、とか。
と・こ・ろ・が。この2人。浅田さんにそれだけ伝えると、すぐに亡くなってしまうんですね。「残された人は堪りませんね。絶対に返事の届かない手紙を書き続けてるようなものですから」と浅田さん。
「おとうさん、わたしは幸せだよ」
佐藤乙松。北海道のローカル「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」駅長。といっても、1人であれもこれもしなくちゃならない。
「D51が日本を引っ張るんだ」という父親の言葉に魅せられて、ぽっぽや(鉄道員)になることを決めたけど、いよいよ定年を迎えます。
かつては集団就職の子供たちで賑わったものだがいまは昔の物語。時同じくして、この駅、というよりこの路線も廃止です。
ぽっぽや人生。好きなことばかりして生きてきたというけど、生れたばかりの一人娘を病気で失い、「ぽっぽやしかできないあんたの面倒を見なくちゃ」と言ってた妻にも先立たれ、いまや、乙松は天涯孤独の身。
そんなある雪の日、ホームで雪掻きをしていると、「人形を忘れた」と1人の少女が現れます・・・。
「おめえ、ゆうべからずっと、育ってく姿をおとうに見せてくれたってかい。夕方にゃランドセルしょって、おとうの目の前で気を付けして見せてくれたってかい。ほんで夜中にゃ、もうちょっと大きくなって、またこんどは美寄高校の制服さ着て、17年間ずうっと育ってきたなりを、おとうに見せてくれただか」
「したっておとうさん、なんもいいことなかったしょ。あたしも何ひとつ親孝行もできずに死んじゃったしょ。だから」
「思い出したんだべさ。この人形、おっかあが泣く泣くおめえの棺箱に入れたもんだべ」
「うん。大事にしてたよ。おとうさん、美寄で買ってきてくれたしょ。おかあさんがレースの服あんでくれて」
「そったらこと、おめえ・・・おとうは、おめえが死んだときも、ホームの雪はねてただぞ。日報書いてたんだぞ」
「そりゃおとうさん、ポッポヤだもん。仕方ないしょ。そったらこと、あたし、なぁんとも思ってないよ」
無口で融通の利かない父親がいちばん気に掛けていたこと。わが子の死に目にも、妻の死に目にも会えなかったこと。死を前にした父親に、「ありがとう」とひと言伝えたくて娘は現れたんですね。
浅田次郎さんに直木賞をもたらした珠玉の短編集『鉄道員(ぽっぽや)』の映画ですね。何回観てもいいな、やっぱ。
さて「中島孝志の 聴く!通勤快読」でご紹介する本は、『歴史・小説・人生』(浅田次郎編・河出書房新社)です。
これも対談本なんです。いいんだよなあ。なんともいえません。詳細はこちらからどうぞ。