2010年04月28日「中島孝志の 聴く!通勤快読」全文掲載! 「五郎治殿御始末」 浅田次郎著 中央公論新社 1575円 

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 世界経済は想像以上のスピードで回復してるようですね。

 いえね、G20の総括ですよ。とてもそんな実感できませんけどね。なにしろ、あのアメリカ以上に財政が実質破綻してるのが「日本」という国家の現実なんですから。
 幸い、日本の借金=国債を買ってるのは95%が日本人ですからね。あのギリシャでさえ国内消費は30%に満たないんですもの。日本は運がいいですよ。

 国が傾いたら国債をたたき売る。暴落させたくないから利率を上げる。利率が上がればたくさん支払わなければならなくなる。財政はさらに逼迫する。けど、それをしないと「デフォルト」しちゃう。IMFが乗り込んできて経済をめちゃくちゃに荒療治させちゃう。政治の空白=経済の空白。

 実は、日本を助けてるのは日本人なんですね。で、少なからず寄与してるのは「英語ができない日本人が多い」ということだと、わたしは考えてます。
 英語ができたらどうする? 日本の金融機関なんかに預金しないっしょ? 外国の国債、通貨、債券買うんじゃない? ドル建てで金買うでしょ?
 小学生から英語教育を導入する? バッカじゃなかろか? ま、旅行とかレストランで使えればいいか? まさか、MBAとか国際法務とかでは使えませんよ。まずは、日本語がきちんとできる頭脳がないとね。

 さて、日本の失業率は5%。アメリカは10%。統計は嘘をつきますからね。でたらめの数字で嘘をつくんじゃなくて、正当に嘘をつくの。たとえば、軍人=自衛隊員の扱いはどうなってる? 就業率にカウントしてる? 

 労働者の党=民主党は失業対策は懸命にやるだろうけど、同時に、公務員の特権(退職金の上乗せ)などは即、止めて欲しいですな。ほかにもたくさんあんだよ。「わたり」ちゅうのは高給(?)官僚だけでなく木っ端役人にまで「おこぼれ」があるんですからね。
 その分、若い世代に譲って欲しいよね。ま、「こんな退屈な仕事やってられません」て断られると思うけど。

 公務員の首切り? できません? いや、できますよ。かつて、この日本はやったんだから。

 そう、「御一新」ですね。あの時、全労働者の20%を占める公務員=武士の首を切ったんだから。超リストラですよ。それをしたから市民平等になった? いやいや、それしなければ、ただでさえ金庫が空っぽだった維新政府の財政がもたなかったんです。背に腹は替えられず、武士に詰め腹を切らせた・・・というわけですね。

 それをいまやらなきゃあかんのです。民主党にできるか? できなければ選挙で勝てませんよ。

 さて、本書は短編集です。『椿寺まで』『箱舘証文』『西を向く侍』『遠い砲音』『柘榴坂の仇討』、そして表題の『五郎治殿御始末』・・・いずれも時代は「御一新」からほんの数年後です。侍が追いはぎになり、武士の娘たちが宿場の飯盛り女に身を落とす。それでも必死に生きよう・・・としていた。そんな市井の民が主人公です。

 御一新のあと、旧幕府の御家人たちには3通りの生き方がありました。
 1つは無禄を覚悟で将軍家とともに駿府に移り住むこと。800万石が70万石になったんですからどのくらい忍ばなきゃならんか、ここでも覚悟がいりますよ。
 2つめは、武士なんて身分もプライドも捨てて商人になったりお百姓さんになっちゃう。
 3つめは、新政府に出仕する。ま、いちばん賢いのはこれですよ。けど、競争率は高い。バカでも田舎ものでもがさつでも薩摩・長州の藩閥が幅をきかせていたわけですから。
 
 でも、中には華麗なる転身などとはほど遠い人生を歩む、誠実で、真摯で、愚直で、そして凛とした男もいました。
 桑名藩の元事務方役人・岩井五郎治もそんな男の1人でした。廃藩置県で五郎治は藩士の「始末」を命じられます。同僚たちに恨まれ、泣きつかれながらも、「リストラ」というお役目を淡々と実行します。

 「この始末が終わったら・・・」

 男には覚悟と決意がありました。藩の始末をし、家の始末をし、遺す者の始末をし、ついにはわが身の始末もする。男の始末とは、けっして逃げず、後戻りせず、能(あた)う限りの最善の方法で、すべての始末をつけねばならぬ。
 五郎治のような始末はだれにも真似できない。無私無欲、不惜身命。始末屋の男がどう人生を始末したか、・・・ぜひ本文を読んでください。

 「わたり」などとは無縁の高潔な男の生き様。凛としますよ。
 音声はこちらからどうぞ。