2011年12月21日「息もできない」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 これはお勧めです。見なきゃいけない。製作・監督・脚本・編集・主演ヤン・イクチュン。

「教えてくれよ、女子高生。どう生きりゃいい?」

 世界の映画祭で25超の賞に輝いた、インディーズでは異例の大ヒット、09年の東京フィルメックスで史上初の最優秀作品賞(グランプリ)と観客賞をダブル受賞。。。といろんな能書きがありますけど、たしかに、それだけの作品ですな、これは。

 ヤン・イクチュンは映画や演劇を教室で習った人ではなく、自分で追究して1つ1つつかんできた人。

 韓国という儒教精神、長幼の序がうるさい伝統社会の裏側で見え隠れする現実。

 横暴でDVの父親、虐げられ続ける母親。泣くしかない弱い子供。キレた父親が包丁で妻子を殺す。泣くしかなかった子供が成人し、DVの父親は老いて力がなくなる。

 立場の逆転。

 崩壊しても家族。憎しみあっても家族。傷つけあっても家族。。。家族というしがらみ。家族さえいなければもっと健全に生きられたのに。こんな家族がいたから苦しむだけ。

「そんな父親でも孤児のオレには欲しかった」

 社会の底辺で生きる男には、気の強い女子高生がええとこのお嬢さんでなんの苦労も知らないとばかり思ってる。けど、この女子高生もDVで悩んでるわけ。



「映画を撮り終わった後で少しずつわかりはじめました。父親は国の発展のため、家族のことは二の次で金を稼ぐ機械のように扱われてきた。母親は小学校までしか通っていない人も多く、子どもを教育する余力がない。ゆがんだ家族像が実は韓国では広く見られます」

「この映画はサンフンの物語のようで、実は父親の物語だったような気がしています」

「狼は1匹で行動することが多い。そんな狼でも寂しさや恐怖心を持っていて、別の狼に出会ったとき、初めは警戒するけど、自分と同じ悲しみを持っていることに気づくと、奇妙な一体感が生まれる」

「サンフンは幸せに対して恋しさを抱いていた。人はどれほどどん底にいても幸せの記憶がなければ生きていけません」

「女性を殴りながら、おまえ、殴られてばかりでいいのか? 母親に対する気持ちが反映されていたと思う。殴られるばかりじゃなく、父親と別れればいいじゃないか」

 ヤン・イクチュンという人は「考える人」「考え抜く人」ですな。監督業をしてる人にありがちな、饒舌だけど中身が薄っぺらいタイプではなく、話せば話すほど味のある人ではないかしらん。ホントのインテリなんだろうね。


 さて「中島孝志の 聴く!通勤快読」でご紹介する本は『日本人はなぜ世界から尊敬され続けるのか』(黄文雄著・徳間書店)です。詳細はこちらからどうぞ。